鍼灸の実技練習でお互いに鍼を刺すのですが、とうとう肩回りや背中に鍼を刺す段階に至りました。
これは非常に緊張を要する事態です。
というのも、その辺りの筋肉のすぐ下には肺があるからです。
うっかり鍼先が肺に穴をあけてしまうと、タイヤがパンクするように体内から酸素が抜けてしまって呼吸困難に至ります。これを気胸と言います。
人間の肺というのは鎖骨の上にまで至っていて、映画なんかでよく見る肩口への被弾などがあると、これで肺から酸素が抜けて瀕死状態となります。
片方なら即死はしないのでしょうが、取り込める酸素量が半分になるので非常に苦しいようです。
肩こりなんて物凄く鍼を刺す機会が多そうなのに、意外にめちゃくちゃ危険地帯。
こうなると筋肉の厚さが防御機能になるのですが、私の僧帽筋はだいぶんでかいです。
そもそもレスリングでいわゆる「富士山」と言われる耳下の乳様突起から肩先の肩峰までを筋肉で繋ぐことによって首を保護するという肉体改造をしているからです。
その後、レスリング式の首トレーニングはしなくなりましたが、マッスル・メモリーという物が機能しているのか、懸垂などでやはりレスリングの富士山型に筋肉が付くのですね。
今回のお話はこの懸垂についてです。
以前から格闘家、武術家含めてほとんどの成人には腕立て伏せが出来ないということを書いていますが、懸垂に至ってはそれどころではありません。
単純に極端に痩せていて自重が軽い人以外は、自重を上に引き上げる懸垂力がほとんど存在していないのです。
子供の頃は簡単に出来ていたから、そんなの信じられないという人が多いでしょうが、まともに第二次性徴を経るとまず無理です。
極端に体重が軽い人は、下手をすればその前後であまり体重が変わっていないから可能なのでしょう。
小学生の女の子でも、雲梯をひょいひょい渡ることができますが、大人があれをやると片手を話した途端グリップが耐えられずに滑落します。
どころか、両手を使ってもぶら下がれない人も珍しくない。
そこで、フィットネス界では懸垂が出来るというのは一つのステータスになっており、また私のように80キロを超えた大人が行うことは危険度が高すぎるとして推奨さえされていません。
皆さん、四十肩とか五十肩という言葉を聞かれたことがありますでしょう? この、肩関節症候群、何も負担を掛けてなくても人間は中年期になれば発症するんですよ。
それくらいに、球関節と呼ばれる肩関節は微妙で繊細な関節なのです。
といった訳で、成人男性に懸垂を進める必要は全くなく、自重よりはるかに軽いダンベルでの筋トレが推奨されているのですが、それでも懸垂がしたいという人たちのために沢山のトレーナーがやり方に関する動画をアップしています。
まずは私がその中でもっともスタンダードだと思うのがこちらの動画のやり方です。
フル・プルアップは負担が大きすぎるから、頭部の半分がバーを越えたくらいで良しとするタイプです。
これを私はこの動画のメソッドから名前をとって「セクシー懸垂」と呼んでいます。
これで充分負荷が強いですし、一定の安全性があるようなので、ちょっと運動が出来る大人ならこれで充分。
なお、このセクシー・トレーナーの先生は、この段階の生徒さんにはこれで指導していますが、ご自身はバリバリ顎の下にバーが来るまで身体を引き上げています。
そのセクシー懸垂を出来るようにするための段階的練習法がこちら。
ギアを使って行っています。
もちろん普通の大人のエクササイズとしてはこれが正解。
しかし。
私たちが目標としているのは、人間の体内に眠る動物の要素を引き出すための身体づくりです。
それが東洋式の練功法の基礎コンセプトですので。
となると、自分の指の力の代わりに道具のグリップ力を使って懸垂をするというのは「出来ていない」ということになります。
ウェイト・トレーニングのウェイト・ベルトも同様。自分の腹筋と腹圧で腰を保護しないと出来てるとはみなされません。
そして、そのための腰回りの筋肉の帯を帯脈と言います。余談。
こちらの方は完全に上がりきっています。私が普段目標としているのはこの高さです。
しかし、こちらもギアを活用しています。
より細かいことを言うと、以下が私が行っているスタイルにもっとも近い物になります。
一つ目はこちら。動画が始まってすぐに「悪い例」として最初に出てくる物です。
「悪い例のはずが、モデルが上手くてむしろ普通よりキツイ懸垂になってしまってますが……」というようなことを言っていますが、それです。
悪い例の失敗、より利く方が私の好きなタイプです。
もう一つはこちらです。
こちらのきんにくんさんの動画の一番最後に出てくるものです。
一つ前の山本先生の動画で「悪い例」とされていた物がなぜ悪いかというと、一般に懸垂トレーニングで狙いたい背部ではなく、腹筋に入ってしまうからです。
現代フィットネス業界では、懸垂は背中のトレーニングで、腕や腹筋に効くのは間違いだとされています。
しかし、気功学の観点からするなら、身体の後ろ側は押し出す力を司る陽の場所であり、前側が引き付ける力を司る陰の力が宿る場所だと見なします。
当然懸垂は陰の引き付ける力ですので、上腕二頭筋や腹筋を指先まで一つに繋げて総体として活用する運動とします。
きんにくんさんがやっているところを見れば、腹筋が一気に活性化しているのを見て取ることがお分かりいただけるでしょう。
鉄棒から離れた途端、その腹筋が一気に沈静化するのも分かります。
私がやっているのはこの、身体の前を繋ぐ力のルート、任脈の練功としての懸垂です。
最近では胸にも非常によく利いており、身体の前後の厚みが増しています。
西洋式トレーニングとはまた違い、こういったトレーニングをすると身体が円柱状に発展します。
中東から東側のアジアのマッチョマンたちを見ると、そのことはイメージがしやすいと思います。