本日の練習で、うちの筆頭学生さんがラプンティ・アルニスを初体験したのですが、彼も私と同じく、もともとモダンなどのエスクリマを割と熱心にやっていた人間です。
そのため、ラプンティ・アルニスと言う超独特なエスクリマをモダンの視点から研究する会のような様相を呈しました。
それぞれ別のエスクリマもしているため、数流派との比較検討です。
結果、ラプンティはそーとー厄介なシステムではないかという見当が付きました。
現代式の、モダン・アーニスやペキティ・ティルシャ・カリは、かなり広範囲的に技術を再統合した大変に良質なシステムだと思います。
あれもできるこれもできる、昔はこんなのをやっていたし、最近はこういうのもできた、と、次々といろんな技を教えてもらえました。
しかし、ラプンティはよくも悪くも必勝パターンに持ち込むことしかしないのです。
始まりはどんな形だったとしても、そこから必ず勝てる作戦に引きずり込みます。
たとえるならグレーシー柔術のような感じです。
確かにそうすりゃかなり勝てるだろうけども、ちょっと露骨すぎゃしないかい、と二人でいささか途方にくれたほどです。
なので結局は多様性ではなくて地力の高さがよりどころとなり、結果ひたすらタイヤを叩いてサヤウをしまくることになります。
もしかして、これはちょっとつまらないスタイルなのでは……と思ってしまいました。
これを面白くするには……どうすればいいのだろう……。
正直、ケソンで一緒に練習をしていた現地の人たちがなぜやっていたのかはわかりませんでした。
あるいは、いまだ日本と比べれば治安が悪いとも言えるフィリピンでは、リアルな護身術としてのニーズがあるのかもしれません。あらかじめ、棒を持っている……護身術……?
いや、そうではなくて、棒状の物ならなんでも手近な物で活用できるというケース・スタディなのかもしれません。
と、言うのもこれが中国武術をルーツに持つものだと言うところから考えた場合、日用品を兵器として用いると言う発想が普遍的にあるからです。
そのように、一見しては武器には見えない兵器を暗器と言ったりもします。
たとえば箸であったり、筆であったりします。
うちには鉄笛や傘と言ったものが伝わっています。
更には、鉄扇という物まであります。
この鉄扇、つまり鉄の骨の入った扇子ですね。扇子をスペイン語でアバニコと言います。
ラプンティ・アルニスの正式名称はラプンティ・アルニス・デ・アバニコ。
その独特の近距離用の打ち方を、アバニコ・ストライクと言いますが、これ、あるいは本当に鉄扇術から来たとしてもおかしくありません。
おそらくはたいていのエスクリマにアバニコ・ストライクはあると思われますが、ラプンティではほとんどの攻撃がアバニコです。
むしろ、アバニコじゃなき攻撃を「ロングレンジ」と呼んで特別視しているほどです。
そのためか、構えや立ち方そのものが他派とはまるで違っています。
私は練習にカメラを持ち込んで動画を撮らしてもらっていたのですが、練習仲間(BROと言う)たちは「ちゃんと撮れたか? 確認してみろ」とカメラを覗き込んできます。
確認しようと操作していると、サムネイルに入っている昔の私の練習風景などを観て「モダンだ」「モダンだ」とうなずいています。それくらい、小さな画面でちょっと見ただけで現代式の物とは違うヴィジュアルをしています。
時にその時のBroたちの反応の感じが、柳生の里の朝鮮出兵経験者の老人たちが江戸の剣術を見て「今できじゃ」「腰高じゃのう」などと言っているような感じで、妙にスタジオ・ジブリのアニメでもみているような面白さがありました。
ここで思い出したのですが、私は柳生の剣をいくらかかじった時期があります。
その時に、これはエスクリマに似ているなと思っていたのですが、あながちラプンティに関してはまったくつながっている可能性が無いとは言えないのです。
と言うのも、以前に書いた記事にあるように、スペイン時代のフィリピンにはすでに数百年も前からの中華系移民がいて、本土との貿易をおこなっていました。
また、江戸期には日本の侍も多々寄港しており、日本人村もありました。
彼等は貿易とはいう物の、その実態は海賊です。中国武術には南船北馬という謂いがありますが、南派拳法というのは海賊の武術の要素があります。
日本人の海賊、あるいは日本人の海賊のスタイルを模した中華系の海賊を、倭寇と言います。
この倭寇に伝わっていたのが、柳生の剣だと言われています。
もともとは柳生剣士の朝鮮の役の時に使われた刀術を、中国側が研究して同様の刀術を創始したのです。
この中華製の日本刀術を、朝鮮柳生……とは言わずに苗刀術と言います。
理由は二つあり、一つには刀の形が稲の穂のような尖り方をしていたということ。もう一つは、中華帝国の伝承では四川で稲作をしていた苗族という民族が東方に移民したものが日本人だと言われていたからです。
この柳生の剣は私の先生が曰く「柳生は細かい」という感じで、手元の操作で刃をクルクル返すというアバニコのような手法も多用されます。
また、真向に足の甲まで切っておいてから真上に返ってくるラプンティが得意とする手法も逆風の太刀と言って伝わっています。
いずれにせよ、もろに海賊武術のヴァイブスがラプンティにはあります。
このように独特すぎる物が、どのようなニーズで現代のフィリピンに残っているのかはいまだよくわからないのですが、日本においてはその価値をこれからよく検討し、楽しみ方を創造してゆきたいと思います。