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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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エスクリマの我流剣士たち

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 エスクリマの歴史を学んでゆくと、やはりスペイン入植の前後と、剣士の時代、バハド(木刀による決闘)時代、ゲリラ戦時代と、時間軸の移り変わりにつれて技術が変わっているのは当然だというのが分かってきます。

 特に、剣士の時代、バハドの時代、ゲリラ戦時代は地理的にも並行していたり、ゲリラ戦終わってバハドやったらまたゲリラ戦始まる、みたいなマダラな流れがあったりするので、目的が違う技術が交じり合ってたりします。

 フィリピン名物「ハロハロ文化」です。

 ハロハロとはまぜこぜという意味です。

 一般的には、多くの民族と、イスラム、スペイン、中華、アメリカ、日本などの文化が混ざり合って作られたということを指します。

 ちゃんぽんやチャンプルーと同様のニュアンスだと思われます。

 そんなハロハロな中で活躍していた剣士たちというのは、そもそも伝統などに囚われた存在ではなかったようです。

 近代化以前の剣士たちというのは、それぞれの得意の必勝法を自分流に組み合わせた我流の喧嘩剣法の巧者で、技と言うのも「こうきたらこうする」というような日本剣術の型のようなことを主体としていたと聞きます。

 現存するこのような剣士の残したエスクリマは、そのために技術がバラバラで体系化されておらず、通称「つまらないエスクリマ」と言われているのを耳にします。

 当然その我流剣士が癖や体質に合わせて使っていただけの物のいわば手癖なので、他人がその形にはまろうとしても返って窮屈な物になるということがあるためではないでしょうか。

 いくら理に適った整理をされて普及効率が良くても、当事者にとっては自分が使えなければやられてしまいますので、これは当然のことでしょう。いわば当人のためだけにカスタマイズされたチューニング・カーのようなものです。

 我流剣士たちが英雄として活躍していたという文化が背景にあるためか、ハロハロ文化のためか、いまでもフィリピンにはこのような我流剣士のエスクリマドールがあちこちにいるようです。

 それぞれに教えあって部分的に気に入った技を織り交ぜたりしながら、自分独自の剣技の稽古をしている人たちの存在は、フィリピンでは違和感のないもののようです。

 もし現代日本で刀を振り回して同じことをしてたらかなりの変わり者だと思われるでしょうに。

 これらの我流エスクリマのブレンド具合も、元となるネタが多岐にわたります。

 なにせ中世の西洋剣術からピストル片手のゲリラ戦、果てはタリバン相手の現代兵器との併用技術までエスクリマと言うくくりの中には存在するからです。

 このような個人的な剣術とは別に、体系づけられたエスクリマを行ってきたのが剣士の家と言われる人々に伝わってきたファミリー・アート系のエスクリマです。

 こちらは家業として剣士をしてきているので、はじめから子息を育てることが想定されています。

 私たちのラプンティ・アルニスというのはこちらのタイプに属するもので、カブルナイ家という家に代々伝わってきた珍しいタイプの物です。

 またこれとは別に、20世紀になってからエスクリマ体系化の運動が盛んになり、19世紀までの剣士の技術の保存運動や、バハド剣士育成のための技術体系の開発が行われました。

 現在広く行われているモダン・アーニスもこのような中の一つです。

 いまのフィリピンではこちらの流れが主流となっているようで、多くのエスクリマドールが独自の技術体系を編纂して新しい流派を生み出しています。

 ボクシングやテコンドーなどがハロハロされ、多くの現代流はが創始されています。

 これらに共通するのが、ループ・トレーニングと言う円環する練習技法だと思われます。

「つまらないエスクリマ」の時代の物が単調な打ち返しであったのに対して(それでも日本武術ではそこが面白いと思って一生懸命やってるんだ!)、さらに打ち返しに打ち返し、またそれを打ち返す、といったような形でラリーをしてゆくものです。

 これはフィリピン武術の特徴のように思われがちですが、もとはなかったようです。

 おそらく、中国武術の散手から持ち込まれたか、民族舞踊の要素からきたのではないかと推測しています。

 剣士の時代のエスクリマの多くは「パラカウ」というトレーニングをしていたようです。

 これは師匠側が弟子筋を打ち込み、それに対して弟子が必死で防御して打ち返すと、それをスルーしてさらに師匠が手厳しく打ち込んでゆくという物で、もっぱら練習の主体は弟子側というかわいがりのエクササイズです。

 私たちのアルニスではタピタピというものを行うのですが、これは割に対等のものです。

 ループ・トレーニングの発明以降に変化したものなのかもしれません。

 この模擬的なやり取りの中で、仕込んだ技術や必殺技を盛り込んでゆきます。

 私はこの部分に、現代人のライフスタイルとしてのマーシャル・アーツにおける面白味のようなものが見いだせないかと思って日々模索をしています。


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