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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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掃討力ー短い勁と長い勁ー

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 前の記事に書いたように、ブルース・リーは蔡李佛拳を意識した動きを各所に取り入れています。

 しかし、その真髄を獲得できたように見える動きは寡聞にして知りません。

 では、その真髄とは何かというのが、ブルースの証言の中に見ることができます。

 「(蔡李佛の)パンチを受け止めたが、止めることが出来なかった」と言うことを、彼は何度か残しています。

 これこそがいつも書いている蔡李佛の勁力の特徴です。

 蔡李佛の基礎戦法は、相手が受け止めてもそのまま打倒す。打倒せなかったらさらにその上から打つ。というものです。

 なので、ガードをかいくぐったり橋を封じるようなテクニックはさほど重視していません。そのために、大振りの拳法と誤解されるのですが、そうではないのです。あれは当たるところならどこでもそのまま打てるという勁力の用法です。

 スイングパンチだと一般に解釈されている動きも、決して拳面をあてに行っている訳ではありません。手首を目安に打ち込んでいって、たまたま相手が遠ければ拳、近いなら前腕、さらに近ければ上腕、果ては肩や脇腹、果ては背中など、大きく腕を振る動きのどこで当たっても威力を伝えられるように練習しています。単純にパンチのひとくくりにしてしまうべきものとは違うのです。

 日本語版ウィキペディアで蔡李佛拳を引いてみると、ブルースの推薦の言葉が載っています。端的に言うと「多人数戦に最も適した拳法」ということなのですが、それがこの、相手が全方向どの角度のどの距離にいるか分からないことを想定して作られている、という基礎構造の思想に現れています。

 この部分に、相手がガードしていてもそのまま打ち込む、という定石も含まれます。

 蔡李佛拳が作られた当時、戦闘では盾を装備していました。その技法はいまでも残っています。この盾で身を隠した相手に、その盾越しに発勁したり、また自分を盾で守りつつ、その内側から相手に発勁する技法が前提になっているのです。

 ブルースが映画で見せる、平馬になって腕を真横に振り出す技、あれがその盾の技です。実際はあそこから相手に接触させた盾を持つ腕の内側を逆の手でたたいて発勁して効かします。鞭槌と言う動作です。鞭とは紐のことではなく、鈍器一般をさすことが多い言葉のようです。

 自分の盾や相手の盾を貫通することが前提となっているので、素手で受け止められてもそのまま貫通します。

 散打や他流試合でも、そのパターンで勝ちを得たという話を聞きます。

 これを成り立たせている勁力を、我々は掃討力と呼んでいます。ある先生曰く「蔡李佛はごみを掃除するのよ」という言葉が示すように、邪魔なものを払うようにしてそのまま吹き飛ばしてしまいます。

 この勁力をまた、長勁と呼んでいました。

 ある北派の先生の分類では、長勁と短勁の違いは、時間だと言います。

 我々の言う短勁は、たしかに瞬間的に爆竹が破裂するような瞬発的な勁力です。打つ前に用意を用いず、打った後も余韻を残さずに瞬発させます。

 長勁は実際に攻撃を打ち出す前からすでに発されており、打った後もそのまま発され続けています。電流のように、術者の体内をずっと流れ続けています。

 短勁で相手を打つとき、相手のガードや厚い筋肉で受け止められたなら、その鋭い威力の瞬発の内、防御壁で弾かれた物をのぞいた力が相手の内側に響いてゆきます。

 つまり、表面が痛くて、そこから中も痛めつけてゆきます。尖った拳形を併用したり、ねじりこんだりして表面をいかに突き破るかが威力に直結するようです。

 対して長い勁は、突く棒で釣鐘を突くような物です。その表面を打ち壊すのではなくて、威力を伝達させて全体に力量を響かせてゆきます。

 なので、これで打たれると当たったとこと全く関係ない首や股関節などに怪我を負うこともあります。

 ピンポイントを穿つような力ではなく、掃って討ち倒す力です。パソコンに錐を突きたてるのが短勁だとしたら、パソコンを床に叩きつけるのが掃討力です。

 俗に、交通事故にあったときのようなダメージという言い方をします。

 この力を養うには、ぴょこぴょこと飛び回ったり体重を浴びせかけるような動きをすることが向きません。

 しっかりと地に立つことが必要になってきます。

 そのために、ひたすら地面にしっかり立つことが重視されます。

 この勁こそが、私たちの中核であり、宝です。初心者から師父まで、みんなこれを練るための練功をしています。

 これをすると、急激な動きや神経質な反応をせず、のんびりと重厚でかつ重く溶けて流れるような感覚を内側で養ってゆくため、リラックスした心地よさが味わえます。

 各種の凝りや片頭痛などは、筋肉や神経が過敏になっていると起きやすいと思われます。内側を伸ばす体になってゆくと、のんびりとした感覚を持って日々を暮らせるようになると思っています。


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