生命の成り立ちとその保存に必要な気、およびそれらによって再生成される精について前回は書きました。
この精に関しては、日本では貝原益軒の養生訓にある「接して漏らさず」の言葉が有名ですが、これは中国の気功学が種元になっている一文であるのは明らかです。
単に、漏らさない、すなわち射精をしないというだけのことではないところがミソです。
闇雲な禁欲ではなく、性交そのものは推奨されているのです。
ただ、射精をして精子に宿っている気である精を喪失してしまうと、負担が大きいのだと考えられています。
まず、性交は陰陽の気の大きな交流になるので、これは生命にとって極めて強い働きをもたらす最善の健康法であると言ってもよいでしょう。
生命力を活性化し、各種のホルモンの分泌を促します。一般にこの性的な興奮に伴うホルモンの活発化が減少してゆくことが老化につながっているとされています。
日本人男性に前立腺肥大が多く、欧米と比較すると前立腺がんが多いと言われるのはこの性的な活動の少なさが原因であるという説もあります。
身体の健康のみならず、小乗仏教では性交によって精神を高めて悟りに向かうという考えがあり、ヒンズー教でも性的エネルギーを運用することで潜在能力を活性化するヨガが存在します。
それらの後継である中国気功にも当然その術が存在している訳で、それこそがすなわち、気功の中で房中術と呼ばれるものとなっています。
具体的には、まず一つに精子の流出を防ぐというのがその内容には含まれます。
次に、精子から精を吸い上げるということを行います。これには独自の気功法が用いられ、奇経八脈の内、中脈と呼ばれる経脈が開発される必要が出てきます。
中脈を開き、精液から精を吸い上げてそれを脳に引き上げることを環精補脳と言います。
これはヨーガで言うクンダリニー上昇と同じ物だと言います。
これが行われるときに、精の気によって中脈の経路が精で満たされることに大きな意味があると言います。
この経路というのは、到達点である脳、通路となる中脈のある脊髄、そしてそれが通る胸腔にある横隔膜、腹腔にある腹膜、骨盤にある骨盤隔膜、会陰部にある尿生殖膜だそうです。
脊髄に精が通っていることを精髄と言いますが、まさにこの精髄を得ることこそが中脈が実となって気功がなった状態だと思われます。
それを支える上記の隔膜なのですが、私が学んだ派の気功ではこの、人体の膜にこそ勁になる気が宿っているとされています。
少林武術で言う膜騰起というのはこの膜が勁を使うための物として活性化した状態だと言えると思います。
房中術でも同じことを行うのです。
そのために、会陰部、すなわち生殖器がその大部分を占める尿生殖膜の勁を練功するのです。
これにより、より全身の勁が強くなり、武術に対する効果も非常に高く現れます。