少し前に、太極拳は身体の扱いが良くなくて、深刻な負傷が問題になっている、という記事を書きました。
https://ameblo.jp/southmartialartsclub/entry-12457597537.html
ただこれは、太極拳に限らず、あらゆる運動に言えることかもわかりません。
一定の実力と経験を積んだ人たちが「腰が痛い」と言っているところは基本的に腰を破壊することをやっていると思った方がいいと感じます。
直立二足歩行をしている以上、宿命的に人類は腰を傷めます。
それは当然のこと。
それを、食い止めて改善するための運動なら良いのですが、消耗を促進する運動をするならそれなりに覚悟を決めて自分でケアをしながらした方が良いのは間違いがありません。
では、お前たちのところはどうなんだ、と言われると、これは身体の遣い方に厳重な注意を取り計らうと同時に、身体を作り変えていって負担を消してゆきます。
新しく入ってきた生徒さんに、まずとにかく仕込むのがその腰を傷めない身体の作り方です。
技ではなくて、身体と心を作り変えることこそが伝統中国武術のやり方でありますので、そこは絶対に避けては通れません。
具体的には、筋膜の繋がりを作り直して身体を斜対歩から側対歩に換えてゆきます。易筋、換勁です。
斜対歩というのは、身体を斜めにねじって歩くことで、人間はそのようになるように筋膜が出来ているのですが、そのクロスしているバッテんの一点にどうしても負担が掛かるので、腰を傷めやすい。
それを肉体改造で別物にします。
この練功によって腕は太くなり、腹筋は割れてきて、いかにも少林と言ったガチムチボディになってゆきます。
思い返せば、映画の中のカンフー・ヒーローはいつでも何かおかしな筋トレばかりされてはいませんでしたでしょうか?
あれらのネタ元になったことをやってゆきます。
とはいえ、それが腰を傷めない身体を作るための物なので、腰を傷める運動であっては仕方がありません。
初学の方がやる運動は、大変にゆるい、どなたでも出来る運動。それを、一度に10回以下。一日に2セットまで。
それも、この運動は週に二日までしかしてはいけません。
物足りない、こんなのでいいの? と思うでしょうが、その不安に負けてはいけません。弱い心に飲み込まれないのは禅の修行である少林拳において大変重要なことです。
とにかく、練習をしすぎてはいけない。師父にもそこは厳重に注意されて育てられてきました。
中国武術の大きな特徴として言われることに「段階がある」という物があります。
簡単すぎて不安になるような練習を、一つづつ段階的に進めてゆきます。
週ごとに、あるいは半月、ひと月ごとに、簡単すぎる運動の負荷を小石一つ分づつくらい増やしてゆきます。
人間の身体は、新陳代謝を経て強くなってゆきます。
細胞の新陳代謝はミクロの世界。その細胞が積み重なって大きくなってゆく速度を追い抜いて負荷を掛けてはいけない。
恐ろしくゆっくりと、しかし正確にやってゆきます。
腕立て伏せのことを鉄牛耕地と言いますが、それ一つとっても数さえこなせばよいという部活式の罰ゲーム腕立て伏せとは雲泥の差です。
このような伝統的な練功法は、一日十五分以内で十分に聞きます。負荷が高くなれば、とても十五分以上も出来るような物でもなくなります。
その代わり、その段階に行くには時間が、というより期間がかかります。
身体がそのサイクルに合わせて成長ホルモンの分泌をし、運動との調和がとれるまでにゆっくりと歩み寄っていかなければなりません。
その段階にいたれば、何もやっていない日の翌日、朝起きて鏡を見れば腹筋が割れている、というようなサイクルになってゆきます。
一日十五分以内、週二日程度、というのは信じられないという人も居るでしょうが、結局は身体を育てるのに最大の敵となるのは疲労なのです。
多くの西洋的運動は疲労が大きすぎる。
それでは元の状態に回復させるだけで持てる力を使い果たしてしまう。
回復力と負荷の兼ね合いこそが大切です。
このような運動の仕方の現代的なシステムにおける第一人者は、身体を大きくするコツについて「休め! とにかく安め!!」という名言を残しています。
うちでは四十代ではまだ若手、五十代から始める人も珍しくありません。下手をすればただ生きているだけで疲労して消耗してゆく年頃です。
それでもうちではみんな、どんどん身体が変わってゆきます。
それは生涯をかけての運動にふさわしい内容で取り組んでいるからです。
健康な肉体で快適に過ごす。そこから人生を良く送るライフスタイルが始まります。