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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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解・1

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 無事帰国し、沢山の物を持ち帰ることが出来ました。

 その沢山の物が、一つの総体であることはなおさらの僥倖であります。

 しかし、私が持ち帰った のはそれだけではないのかもしれません。

 個人的に、この旅の渡比は20年以上かけたエスクリマの道におけるある種の到達点でした。

 グランド・マスターとなり、自分の差配で流儀を構成することが出来るようになるということは、ただの我儘を許すと言うことではなく、自分で考えて最善を模索できるだけの内容を託されたということです。

 マステラルやシークレットと言われる、いまだ公開されていない技術群の存在を含めて、エスクリマが何なのかということを伝授されたということになります。

 その、判断能力、認識能力を与えられたということはとても大きなことです。

「あとはそこからお前が作っていけ。カンフーを混ぜたっていいんだ」とのことを繰り返し言われました。

 断片の寄せ集めではなくて、全体を与えられたので、そこから踏みはずすことが無いからです。

 一人前の見識のあるマスターだと見なされたということです。

 これはとても大きな物です。

 そして、これもまた、これだけではありません。

 別の大きな意味があります。

 どうしても自分の中で、ここに来るまでを人生の一つの道標として見ているところがありました。

 特にこの十年の間、それが人生を変えるきっかけ、自分を変えるということの具体だと見なしている部分がありました。

 どんなことがあっても、人生の羅針盤はとにかくそこに向いていました。

 その思いがあるため、出発時はあれほどのプレッシャーにあった訳です。

 それが終わったことで、一言で言うなら肩の荷が下りました。

 人生で後回しにしていたことや、目を向けることが出来なかったことにここから取り組むことになります。

 旅立ちのおりに、ここでも呪いのことについて書きました。

 それは、私の武功、気功の、ある意味における負の成果です。

 あるいは、極めて取り扱いに慎重になるべき、力を得ることに対する責任のような物です。

 精神の行、身体の功という物が、自分が望んでいるよりも強くなるという問題が、呪い(比喩です。あくまで)という形で顕れていた。

 それをどう対処するかと言うことが、私の課題となっていました。

 その中で、フィリピンの治安も衛生も厳しい環境で「これが役立つ」「これは忘れるな」と、元軍人、現ボディガードのマスターから教えられる技の数々。

 ナイフで急所を切り裂き、脊椎をへし折る。

 そういう訓練が精神的に苦痛を伴うものであったことは前に書きました。

 それが数日続いたあと、急にそれまでは右手で持っていたナイフを左手に持つように言われました。

 そして、右手には棒や模造刀を持ちます。

 そこから始まったのは、両手に持った道具で相手を綾取り状に絡めとってゆく技術でした。

「これが秘伝だ」

 とマスターは言います。

 はっきり言ってこんな物はそれまでの話で言うならなんの役にもたたない。

 だって、途中でナイフで刺してたらそれで終わりじゃない。首だって折れてるよ。なのにどっちもしないでなんか複雑なことをわざわざしている。

 明らかに、頭でっかちに創作した面白テクニックです。

 ナイフだけや関節技だけをやっていた時には無かった、驚きと喜びがあります。

 驚きと喜び。

 少し回り道のお話をします。

 以前に、ある大作家の人が気功家の先生と共著した本を読んだことがあります。

 その作家先生はだいぶ気功にかぶれたらしくて、独自の養生論を展開しては本来の専門家であるはずの気功家の先生に逆に持論を講釈するような次第でした。

 そのお話の中に、本来は専門家であるはずの仏僧の人たちに呼ばれて逆に講義をすることがあるという物がありました。

 そして言うには、僧のように感情の振れ幅が狭い人達はダメだと言うのです。

 おかしなことを言うと思いながら、同時にあるいはそのような考え方もありえるかもしれない、と引っかかるところがありました。

 

                                                                     つづく


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