またいつものようにラジオを聴いていたのですが、そこにある……なんだろうな、あの人の職業は……番組での発言からくみ取るなら、自称忍者のアクション俳優の人が出てきました。
この方、もとJACで映画に出ていた人なのですが、その後何がどうしたのか自称忍者になってしまい、いまでは独自の武術理論を押し出している人だ、というのは人づてに聞いていたのですが、まぁ忍者だなんだといううろんげな人間は私にはかかわりが無いので、YOUTUBEでお勧めに出てきても削除していました。
とはいえ、ラジオに告知で出てきたからと言って拒絶するほどにも知らないので、話を聴いていたのですが……これが酷かった。
一応、本人は(たぶん周りの大人の支持でガイドラインがあったのだと思う)興行的にクレバーにふるまおうとして一定のラインは守ってはいて、ニンジャについては一切話さなかったり、自分のことを武術家ではなく俳優だと言うスタンスで出演はしていたのですが、結局のところは自己中心的な虚栄心で自己粉飾をしているだけのヒトしか見えませんでした。
本人の言いに則った解釈をすると、演劇の中で自分に対して本気で攻撃をしてもらって、自分は鍛え上げた本物の武術で返すというところを表現としているということだったようなのですで、これはまぁ理解の出来る意図ですし面白いと思います。
が、それを伝えるのに逐一「演劇界で本当にやってる俳優はぼくだけ」というぼくがぼくが表現をしてきて、結果司会のベテラン女優さんを少しムッとさせていました。
この人のやっていることって本当に変で、自分は武術家として喧伝するのですが、同じフィールドで映画を作ることに専念している他の俳優さんたちに「本気で殺す気でかかってこい!」と言って襲い掛からせては「あいつらは弱い」「俺には絶対叶わないと思い知らせた」「俺におびえて切りかかってこなくなってきた」などと得意げに言っているのですが、いや、それ戦いだと思ってやってるのあなただけですから。
みんなはちゃんと見て面白いお客さんを想定したお芝居を作ろうと一生懸命やっているので、自分の虚栄心だけでそこに立ってないと思うんですけど。
本当の武術の世界の物差しで測るならそちらの世界で活動してればいいのにと思うのですが、あくまで自分は俳優だと言い、全然関係ない演劇界の中だけで自分は本物だと言ってお山の大将になっている。
とても考えられない精神レベルなのですが、十年前から精神を病んでいると言っていたので、あるいは目がキラキラしていると言われていたから覚せい剤が入っているのかもしれない。
とはいえ、こういう俳優さんは、昔の人の中にはよくいたようです。
剣劇で何人も斬っているうちに自分が本当に強くなってしまったように錯覚してしまったり、ヒーローであるような気分になってしまったり。
「俺はあの○〇を殺したんだ」とか「〇〇は俺のオンナだ」と共演者との関係が公私混同された発言を何度か聞いたことがあります。
悪役商会の八名信夫さんなんかは自覚的で、撮影中は絶対に善玉役の俳優さんとは口も利かないと言っていましたが、こういうのはある種の憑依型俳優的なことなんでしょうね。
なんでもないことに感情移入して興奮できてしまうというのは才能でもるのでしょう。
ただ、件の俳優さんの問題は、俳優だ演劇人だと言い訳をいながら、かたやで武術理論を展開しているところです。
さも武術家のようにふるまっているのですが、あくまで本人はそれも俳優としてだと言います。
そしてその上で言っているのが「握手しただけで首をガクっとさせることが出来る」とか「肩甲骨で波を送る」などと言う、中国武術の論からしてみればレベル的に疑わしい程度のことであり、また最終的な着地点にしても「サムライの武術は日本人の骨格に最適である」という処に至っており、この人の体格は現代日本人の物ではないのか、と驚かせるような物でした。
邪推なのですが、結局自分に自信がないから民族主義に走ったといういつもの良くいる低レベルな武術愛好家と同じなのではないでしょうか。
こういう人、いっぱい見てきました。
鷹爪功や通背の断片に触れただけで夢中になってしまった日本人武術家は沢山います。
しかしそれはあくまで断片であり、それらを支える丹田の功まで至って初めて小周天の段階となって武術としては一パッケージ。
そこからさらにそれもまたパートとして大周天の段階に向かってこそ本道だということを最近も書きましたが、そういう全体の末端のさわりだけを騒ぎ立てているという人は、本当に昔からずーッと存在してきました。
そういうことを売拳と言います。
水滸伝でも、売れない武術家が路肩で売拳をして薬の行商をするというシーンがあります。
同じような芸を見せて興行をしている忍者のヒトも昭和まではよく小学校の慰問などに来たとも聞きます。
西洋でも、プロレス興行などはこの直系であり、あるプロレスラーは下積み時代に海外興行では忍者の秘伝だとして観客の頸動脈を圧迫して落としたのち、活を入れて蘇生させては「触れただけで死なせて、のち蘇らせた」と喧伝していたと聞きます。
サーカス芸人としてクマと戦うというレスラーも居たそうですし、またそのままガラスを食べたり火を噴いたりしたそうです。
日本では、浅草の居合抜きが有名だったと言います。
よく誤解されていますが、本物の武術としての抜刀術は居合抜きと言いません。
居合抜きというのは剣術家の売芸であり、早抜きや長抜きという芸を見せて、空に巻いた紙を切ったり巻き藁を切断したりするという見世物のことを言います。
くだんの俳優武術家も早抜きを自慢していましたが、まさに彼がそのような売芸の後継者であることのカミング・アウトでしょう。
とまぁ当たりを付けたのですが、私も一応正統な武術の学問を積んでいる学徒の身、あるいは彼が本物である可能性も捨ててはいけません。
十中八九そこは割れているのですが、断定はできない。
のですが、彼の正体がばれているという動画を見る機会に偶然出くわしました。
彼のパフォーマンスを披露するコンテンツだったのですが、そこでやられ役として彼が引っ張ってきたのが、どうやら格闘技経験者らしいかなり打たれ強い壮漢。
「はい格闘技経験者、格闘技経験者なら大丈夫だよね~」と例のメートルの上がった軽薄な感じで例の俳優さんはその坊主頭の壮漢の手を引いて前に引き出してきて、いかにもこれから軽く叩きのめしてみんなをあっと言わせる、という態で彼の腹を打ったのですが、これがひどい。
身体がうねって肘が浮いてしまうという素人パンチです。
いや、これ、彼の理論だとその波打つ骨格が大切だということらしいのですが、中国武術でいうなら骨肉分離、骨を離れてうねらず外に気を出さずに打ててこそ本物で、そんな素人考えが利くわけはない。
果たして実際、壮漢には堪えた様子もなく、慌てた彼は「じゃ、次は本気で! 一番ヤバいのやるから!」と改めて力を込めた単なるパンチをまた打ったのですが、結果は同じ。
余裕たっぷりに笑う壮漢に同じようにお腹を撃たれて瞬時に逆上、反射的に相手の顔面を殴って周りに「なにやってんだ!」と突っ込まれて頭をはたかれていました。
心の弱い、甘やかされた素人です。
最後に相手の顔面に不意打ちで入れたパンチは、身体がジャンプしてしまっている、中高生の不良が喧嘩した時にやるようなピョンピョンパンチでした。
きちんと顎先に当たっていましたが、やはりまったく効いていませんでした。
気功で触れずに相手を倒せるという中国武術家が総合格闘家に臨んでたちまち倒されたという中国の番組がありましたが、おなじことでした。
彼の理論では、これ以上の結果は出ない。
稚拙な理論を唱えているけど、私の知らない高度なやり方があるのだろうかとも思ったのですが、ありませんでした。
こういう人たち、サーカス芸人や忍者の人たちが、つねに本物の武術の真似をすることで、本物足を引っ張り、世間に誤解を招き続けてきました。
もう何世紀も前からずっとです。
英語に「フーディーニ」という言葉があるそうです。
これは、実在の芸人「フーディーニ」の名前から来た物で「びっくりした」という意味だそうです。
このフーディーニ、不死身の男として巨漢に殴られても大丈夫だと言うパフォーマンスをしたりしていました。
おや、いまでも同じような芸をしている人たちをみたことがある気がするな?
もちろん、当たるポイントをずらしたり先に飛んで逃げたりと言うズルをしてごまかしている売芸です。
このフーディーニ氏、ある時街で出くわした男から「あんたフーディーニだろ? 不死身の男の?」と言われて殴りつけられ、そのまま亡くなってしまったそうです。
インチキは、高くつくと思うのは私だけですか。