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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ロスト・ジェネレーションとパラダイム・シフト 1

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 私は幻想文学マニア、パルプ小説マニアで、本棚にはダンセイニ、ホジスンからアルジャーノン・ブラックウッド、ハワードと来て当然、ラブクラフトがあります。

 これはあくまでパルプな趣味であって、いわばある種の本道としてはいわゆるロスト・ジェネレーション文学が好きでした。

 そこから翻訳者、解説者としての村上春樹に出会い、彼の全作を読むファンになったのですが、この流れから見ると村上作品がパルプ小説を下敷きにしていることがよくわかります。

 有名な羊シリーズの羊のモチーフは明らかにラブクラフトです。

 羊は宇宙から来た不可解な思考の生命体で在って、人の内側に棲みついて力と引き換えに大きなものを奪ってゆっくというような構造は、明らかにラブクラフト・フォロワーであるマキャモンやフランシス・ポール・ウィルソンのモダン・ホラーそのものです(あえてキングとは言わない)。

 この視点を持つと、近代アイルランドのダンセイニからラブクラフトに続く幻想小説の流れと、並行したフィツジェラルド、ヘミングウェイの文脈が一つの時代を背景にしたものだと言うことが感じられます。

 つまり、世代としてヘミングウェイやフィツジェラルドを差す「ロスト・ジェネレーション(迷子の世代)」の影響は、ラブクラフトやコナンの作者であるハワードにも及んでいたと解釈できます。

 このロスト・ジェネレーションというのは、第一次世界大戦に従軍した世代のことで、世界の価値観が変わってしまったので生き方の迷子になってしまった人たちのことを指します。

 クマのプーさんの映画を観ると、作者もまたその一人だったことが分かりますし、再三書いてきたワンダー・ウーマンで書かれた時代の人々がこの時代の若者たちということになります。

 その、第一次大戦によるパラダイム・シフトの要因というのはすなわち、産業革命に起因している物であるということはよくわかることです。

 そしてそこで言うと、このところ私の大いなる先人として引用させていただいているオルテガ先生がまさにこの時代の変遷を18世紀から比較検討して論じてきた人ということになります。

 これらを見て言いますとね、わかることがつまり、世間の価値観なんて百年持たないんだよ、ということです。

 だから、単に自分の前後だけ見ての「世の中そういうもんだ」なんて世間知はまぁ、極めて根拠に乏しい移ろいやすいものだと言えるのではないでしょうか。

 オルテガその人もまた、大衆という物の本質をついて歴史に残る論文を発表しつつも、その中において時代の軽薄な価値観と言う物を逃れることはできません。

 彼は非常な人種差別主義者で、ピグミーや黒人種を歴然の事実として下等な人種とみなしており、時にそれを論拠に理を展開していることさえあります。

 それを土台にしちゃうと人種平等の価値観が当たり前になったいまでは論そのものが根底から成り立たなくなっちゃうんじゃないかなあ、などと読んでて心配になったりもいたします。

 ラブクラフトやハワードもまた、人種差別主義者であったことは知られています。

 いま、ラブクラフトが改めて取り上げられていることの背景には、現代が大きなパラダイム・シフトの時期であり、また差別主義者と現実主義者が大きく分断されている時期であるからではないでしょうか。

 

                                                                         つづく


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