さて、前回は日本の太極拳で用いられている化勁という言葉が誤用であったという説について書きました。
そこで終わってしまっては、その先に秘められている真実にたどり着くことが出来ないので、ここからさらに読み解いてゆきたいと思います。
引き続き、孫禄堂師の著述による郭雲深大師の解説から引用します(訳・K先生による)。
明勁とは、後天の気による先天の気の不調和の改善の結果であり、精を練って気と化し、骨を変えた結果である、とあります。
練精化気であり易骨であるということです。
これ、私が大師が伝える気功としてここにも書いている性的エネルギーの活用です。
蔡李佛の羅大師が「カンフーはセックス・パワーだ!」として伝えていたという部分です。
性的なエネルギーである精から気を抜き取るのだ、と大師は教えているのですが、それはどのようなことでしょう。
精とは気の三態のうちの最も重い、すなわち陰の物であり、陰とはすなわち私の体験から解釈するなら、液体です。
その液体から、中にある気を抽出するのだ、ということですが、つまりは煮出して気化させるというようなことです。
まるでお料理のようですが、実際に気功の実践ではこのようなことを調理と呼びます。
この、液体状の性的エネルギーである精からどうやってその力を抜くのかと、そこがポイントになる訳ですが、我々はこれを「房中術」と呼ばれるカテゴリーの気功によって行います。
「接して漏らさず」のあの房中術です。
日本ではそのように断片的に伝わりましたが、もともと仏教のタントラ(秘法)です。
これまで何度もそのことを書いてきました。
結果、功夫の先生なのにセックスのことばかり書いているという状態でしたが、はい、ここから郭雲深大師の説明の続きを観てみましょう。
「達磨大師は、易筋経と洗髄経の二つを伝えてこれによって身体を強壮にして本来の面目に還ることが出来るようにしたのである」とあります。
もちろん、易筋経と洗髄経という少林拳の二つの極意経は、達磨大師に仮託されて書かれた物です。
達磨伝説の真偽は不明ですが、内容としては少林の秘伝として伝えられ続けてきたことの中核であるのは真実なのです。
21世紀の今日にこうしてPCを叩いている私に至るまで実践していることがこの二つの書によって伝えられたとされる易筋行と洗髄行の二つのカテゴライズの練功法です。
さらに続いて郭大師はこう書いています。
「のちの宋の武穆王が二経の義を拡充して、易骨、易筋、洗髄の三経を作った」とあります。
宋の武穆王とは岳飛のことです。
そう、私が現行で学んでいる岳家拳の開祖に仮託されている岳飛です。
だからこそ、岳飛の名が冠されたのです。
この岳家拳、これまで書いてきた通りに内容は形意拳です。
形意拳と八卦掌を学んできた、いわば民国時代の内家拳師の先生が岳飛に仮託して形意拳から作り出したもう一つの内家拳法です。
これらを記述した後で、郭先生はこうまとめています。
「易骨とは拳中の明勁であり、精を練って気と化す道である」
これがなぜ骨に託されたのでしょうか。
思うに、明勁が形式を明確に保って崩さないという物である以上、骨格のことを言っているのではないかと想像いたします。
この部分に関して、郭大師の史観から言うなら私は少林拳の徒であって易筋、洗髄の功は行っていても岳飛の易骨を「これがそうだ」と習ったわけではないので明確には言えないところがあります。
次回は暗勁について語っている部分に目を向けてみましょう。
つづく