前回、流れの都合で書けなかったのですが、少林寺焼き討ちを果たす雍正帝の物語「少林寺への道 2 十八銅人の逆襲」には振るったラストが用意されています。
少林寺憎しの想いに燃えた雍正帝がどうにか取り潰しをしてやろうと思っているのですが、そこに官吏が報告に来るのです。
「最新兵器の血滴子が完成いたしました」
それを聞いて雍正帝は「よし、それを持って少林寺に攻撃を掛けろ!」と指令を下して終わりです。
この血滴子、またの名を「空飛ぶギロチン」として映画界に知られている物です。
残念ながらこの奇門兵器は完全に創作で武術史に実在はしていません。
しかし、好事家の間では、香港映画のカルト兵器という珍しい存在として知られてきています。
最初の作品「空飛ぶギロチン」では皇帝が部下の中にいる叛意を持った高官を暗殺するための暗殺部隊が装備する特殊兵器として登場しました。
この作品自体に「続 空飛ぶギロチン」という二作目があるのですが、偽物映画の「空飛ぶ十字剣」という物もあります。
また、別の人気シリーズ「片腕ドラゴン」物とある種のコラボを果たした「片腕ドラゴンと空飛ぶギロチン」が大ヒット、これにてその地位を不動の物とした不思議な道具です。
タランティーノの「キル・ビル」では栗山千明演じるスケバン刑事のまがい物キャラクターが出てくるのですが、おそらく装備していた兵器「GOGOボール」はこの血滴子が元になっている物だと思われます。
このカルトな珍兵器の存在が、「少林寺への道 2」のオチになっている。
となると、実際に少林寺の最後を描く「少林寺炎上」ではこの空飛ぶギロチンと十八銅人との対決が見られるのかと思ったのですが、本編には登場しませんでした。口だけ。
普通に大砲で焼き落していました。
物語の前半で少林寺は雍正帝の支持を受けた清朝の攻撃によって崩壊。
落ち延びた武僧たちによる雍正帝の暗殺計画が描かれるのですが、この映画のラスト、なんと実際に雍正帝を倒してしまうのです。
いや、もちろん、影武者であったという可能性が検討できるのですが、それでも劇中では多大な犠牲を支払いつも大量の手下を抱えて自身も少林拳の遣い手であり、宝貝まで纏っているこの歴史上の人物を討ち果たしてしまいます。
えぇー。
そんなことあるのー。という思いになって当然なのですが、ここで一つ連想せざるを得ないことがあります。
それは、ここまで繰り返し名前を出してきたタランティーノ監督の近年の数作です。
現実に起きた過去の出来事を描き、史実から最後はどうなるのか分かっているまま見ているのですが、最後、なんとまさかの出来事が起きて映画内で歴史が改竄されてしまう。
逆「この世界の片隅に」です。
これ、タランティーノ監督はやっぱりこういう映画から影響を受けて取り入れた演出法なのではないかと思うのですよ。
ここまで書いてきた「少林寺焼き討ち故事」の定型から、たくさんの支流映画、シェア・ワールド映画が出てきたのがお分かりいただけたかと思います。
もろにこの文脈がやりたい、として作られた「ドラゴン・キングダム」や、片腕ドラゴンにインスパイアされたのであろうRZAの「アイアン・フィスト」のようなハリウッド映画も存在しています。
逆輸入で入れると「片腕ドラゴン」俳優のジミー・ウォング先生は座頭市からハンディキャップ・ヒーローのアイディアを得たそうで、劇中の絵作りは非常に日本の時代劇にインスパイアされています。
その「片腕ドラゴン」を観て「先をこされた。これまでの功夫映画はもう時代遅れだ」と後続したブルース・リーが作ったのが「ドラゴン怒りの鉄拳」なのですが、これも人力車のシーンなど、非常に日本的な夜景が印象的であり、また登場する日本人悪役がみんな勝プロの俳優さん達なのだそうです。
こういった縁があって、香港、日本合作で「座頭市 破れ唐人剣」が生まれたり「妖刀 斬首剣」のような作品が出てきたりしました。
キル・ビルに日本映画や功夫映画の要素がごちゃ混ぜに出てくるのはこのような経緯の必然なのでしょう。
功夫映画で繰り返し語られてきたフォークロアは、いまでも形を変えて繰り返され続けているのですよ。