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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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プロパガンダ映画について 1

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 以前に、香港中国合作のプロパガンダカンフー映画について書きました。

 その時には、霍元甲師を主人公にして遺族に訴えられた「SPRIT」と、葉問師を主人公にして同スタッフからNOプロパガンダ版を作られた「イップ・マン」をご紹介しました。

 近年の功夫映画「少林寺 十八の羅漢」などに至るまで、「SPIRIT」以降中国政府の絡んだカンフー映画は反日プロパガンダの手段としての役割が強く現れています。

 つい最近こちらでも紹介した黄飛鴻師父の映画シリーズ「ワンス・アポンア・タイム・イン・チャイナ」シリーズも最近リメイクされたのですが、これもまたプロパガンダ映画になっていたそうです。

 このプロパガンダ流れにはいくつかの理由が考えられます。

 その一つは、元々カンフー映画にあった反体制の流れです。

 これは、武侠小説そのものが体制に反抗する革命結社の世界を背景にしていることが多いため、元から反体制のプロパガンダ的要素が含まれていたということです。

 この批判の方向が、清朝の女真族であり、形式的には清朝の手引きによって入国してきた日本軍にも向けられたというのが二つ目の理由です。

 70年代当たりのショウブラ映画を観ると、いわゆる軍人ヒゲを生やした日本兵が出て来て「バカヤロー!」と中国人をイジメるという描写がよく見られます。

 この印象はいまだに強いらしく、アラサー位の中国人女性ユーチューバーたちが「日本来てから、あぁいう髭の人見たことないね」と笑ってたのを目にしたことがあります。

 年齢的に彼女たちが昔のショウブラ映画を観ていた可能性はあまり高くないと思いますので、彼女たちが見てきたのは私たちが日本国内であまり目にしないような中国国内コンテンツで、そこではいまだに軍人ヒゲの悪日本人が登場しているのであろうかと思われます。

 余談ですが、大正生まれの私の祖母が、昔は警察官が怖かったと言っていたことを思い出します。

 ひげを生やして、サーベルを持っていてすぐに怒鳴りつけてくるという、いわゆる「おいこら警官」が日本でも多かったのでしょう。

 昭和の武術家のエピソードを読むと、こういった警官を懲らしめたという話があったりします。

 日本の官憲の汚わいパワハラ体質と言うのは代々続いているということなのでしょう。

 話を戻しますと、もう一つのカンフー映画のプロパガンダの文脈には、中国国内の軋轢があると思われます。

 清朝の時代には、支配階級の女真族と彼らがこびへつらって招き入れた列強や日本、ロシアを悪者にしていれば良かったのでしょうが、清朝が倒れて民国時代になると中国人同士の闘争と言う物が主体になります。

 国民党と共産党の対立ですね。

 私が好きな「孫文の義士団」などは文字通り国民党革命に命をささげた拳士たちの姿を描いた作品ですし、黄飛鴻も後年を描いた作品では孫文と義兄弟の契りを結んで彼らのために戦ったりします。

 孫文たち革命家が近代思想を身に着けるために留学していたのは日本であり、当時、列強によるアジア支配を防ぐために中華やフィリピンの革命を後押ししていたのは日本でした。

 ここで、日本人の立場というのは国民党の後ろ盾、味方の位置に変わるのですね。

 この辺りで面白いのは、ショウブラの「少林寺VS忍者」です。

 これは、世界的なパラダイム・シフトの中で先進的な考えを持つ青年が日本から嫁を貰うのですが、夫婦げんかがこじれてやがて嫁が日本から武徳会の猛者みたいな連中を呼び込んで中国武術と日本武道の戦いになる、みたいはお話です。

 まぁ痴話げんかと言えばそれまでなのですが、当然起きうる文化的な軋轢と、そこで起きる腕力での闘争を経て「まいりました」「おみごとでした」と言うようにお互いを認めあい、互いに文化への理解が必要だねと融和をしてゆく様が描かれます。

 まさに性の力を描いた和合のお話ですね。

 ここで、一端日本=悪という流れは解消されてゆきます。

 これは、同じころに日本の時代劇が香港でもブームになっていたり、またこないだ亡くなった千葉真一氏(千葉ちゃん……)のドラマシリーズが向こうでも放送されていて大変な人気になっており、日本から沢山の映画人が招かれて映画に参加していたこととも関係があるのでしょう。

 しかしこれはあくまで、香港や国民党シンパ視点と言う「自由社会」側の意識上でのお話。

 実際には中国は共産党政権の物なので、この香港側の文脈は返還後の反民主化の抑圧の中で押しつぶされて行っているものなのでしょう。

 ちょっと長くなってきたので、つづきは次回にいたしましょうか。

 

                                                                           つづく 

 


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