暑い日々が続いています。
外仕事でもうろうとすることがあるせいか、時折どこかからフィリピンの匂いが漂ってきたように感じられることがあります。
タイではなくてフィリピンです。
フィリピンの、排気ガスの匂いを懐かしく感じることがあるのです。
ちょうど、この数日もフィリピンの友人たちからいつものように連絡がありました。
「どうしてる?」という連絡もあれば「今度いつフィリピンくる?」」という物も。
フィリピンは世界最長のロックダウンが行われて、現在も食料の配給などが行われているようです。
どうしてる? と訊いてきた友人は、あまり生活の豊かではないマスターで、ワクチンはすでに打てたそうなのですけれども、暮らしそのものは社会がうまく機能していないのでちょっと辛そうでした。
対して、今度いつ来る? と訊いてきたのはブルジョアです。
初めて会った時は市井のカイロプラクターだったのですが、バブル経済の中で大金持ちになって、お父さんに農場を買って上げたそうです。
彼はビジネスをしながら島々を回っていて、ホテル暮らしで豪勢な生活をしているようです。
貧富の差が激しい国では、戒厳令下でこういう差が出るのですね。
訊かれて改めて思ったのですが、私がフィリピンに行くことはおそらくもう無いでしょう。
フィリピンで獲得することはもう一定まで学びましたし、次にまた海外に移動ができるとしたら、タイにということになるでしょう。
移動が出来るとしたらと書きましたが、まだまだ当分はそれが可能になるとは思えない。
もちろん、危険を冒して移動することは可能でしょうが、それは論外です。
世界で最も早くワクチンが普及したアメリカでさえ、いまは次の流行が広まっていてハワイでは州知事が旅行に来ないでくれと声明をだしたくらいです。
他人に迷惑をかけて平気でいられるのならなんでも強行するのでしょうが、私はそういうことはしたくない。
また、現地の人達も多くはロックダウン下で生活しているので、誰かが言ってもあまり盛んにレッスンが行われたりはしないでしょう。
ロックダウン破りで出歩いて警官に射殺された人々も居ます。
ですので、当分は私が日本人唯一の、フィリピン武術のグランド・マスタルで居るのでしょうが、その視点からはじめて見ることが出来たフィリピン武術の傾向という物があります。
それらは、日本人の多くが思っている印象からは外れた物になると思われます。
まず、ループするエクササイズをあまりしないということ。
これはモダンなどアメリカで普及したスタイルが主にするもので、現地のフィリピン武術はもっとゴツゴツしていて最後は仕留めるまでの練習をします。
なのにこのループする要素も少し入るのは、やはり感覚の練習であるのでしょう。センシティヴィティ・エクササイズです。
連環そのものの練習ではなくて、そうやって流し稽古をすることでどこから初発が来ても反応できるようにという意図が強いのではないかと思われます。
そこから即死の反撃に出る、という組み立てが本場のスタイルには多いように思います。
そして、そのデッドリー・ムーヴが秘伝となっている。
これ、存外に秘密主義があって、マスタル・クラスになって初めて教えてもらえる秘太刀みたいのがあります。
そして、グランド・マスタルになるとその上もあります。
ループしていつまでもトドメをさせないのはそれらを習っていない段階で、奥まで行くほど応酬が少なくなります。
これは徒手でも言えることで、奥に行くほど動作のやり取りが無くなって、受けたらすぐさま即死させるムーヴに入ります。
そしてそれらの手管は「絶対に誰にも教えるな」「生徒にも駄目だ」「公開するな、SNSや動画で見せるな」という物になっています。
「見せたらお前を殺す」とまで言われては公開は出来ません。
こういった秘伝主義があるので、秒殺の致死攻撃を知らない日本人やアメリカ人はフィリピン武術に応酬の印象を持つのは当然ですが、実際は即終わらせる流れが存在しています。
応酬の要素が強い派は、バハドと呼ばれる仕合を目的とした流派が多いかもしれません。
確かに当時、木刀で殴ったりして致命傷を負うことは多々あったようなのですが、瞬時に意図的に殺害するというのはそれとはまた違います。
主にバハド系でない伝統流派や戦場用の流派に、このようなテクニックは継承され続けてきているように思われます。
そういう物は、甘やかされた安全圏の外国人が面白半分にやる必要はない。
追記
この記事を書いた数日後の昨日、マニラのフィリピン武術界の重鎮であったGM・ベルト・ラバニエゴが亡くなられたと聴きました。
私が最初にフィリピンに行ったのはこの方にお会いするのが目的でした。
直接の私の先生ではありませんが、私の先生であるGMペピート、GMレイ、マスタル・ドドンの三人の恩師の先生がラバニエゴ先生でした。
R・I・P po GM.