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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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一代目のアルセーヌ 3

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 前回は、ルパンの紳士強盗としてのルーツについて触れました。

 中国で言う緑林の徒などと言われる存在が彼の実態だと思われる次第です。

 これは武侠小説などでおなじみですね。

 または侠盗などとも言います(八卦掌の開祖についての記事に書きましたね)。

 この人達、当然武侠の類なので武力に物を言わせるのですが、ルパンの場合は心得ているのはボクシングとサファーデだと書きました。

 しかし、後からまた新事実が判明してくるのです。

 それは、ルパンが幼少時に盗みに手を染めてから専業の強盗として名を上げるまでの間、日本武術の師範として生活を立てていた、というお話です。

 これについては、二つ書かねばならないことがあります。

 まず一つ目は、ル・ブランが執筆した当時のフランスでは日本武術が流行していたということです。

 日本からパリ万博に行った人々の話は有名ですが、この時代、日本人が世界に出てゆくと言うことが流行していました。

 司馬先生の本などを読むと、沢山の人が留学、遊行していたことが描かれています。

 近代国家としての日本を形成するために学びに出ていたのですね。

 以前にターザンについての記事で書いた通り、この時代は白人はみな「フランス人」と呼ばれるくらいに、白人種、もっというなら文明人、というのはフランス人の習俗に準拠する人たちのことでした。

 私たちの世代になると完全にイニシアチブはアメリカに移っているためにフランスと言うとどこか「古くせぇな」と思ってしまうところもあるのですが、おそ松くんのイヤミが描かれていた時代までは「おフランス」というのは世界の最先端の場所だったのですね。

 そこで幕末、明治を生きた人々もフランス人化をしようとしていた。

 日本の軍事、警察機構の基盤もそのためにフランス式が取り入れられました。

 当然、旧士族と言った腕に覚えの人たちです。

 彼等から、初めに日本の「ジュウジュツ」が、のちに加納治五郎の「ジュードー」が伝わりました。

 前田光世らが世界中の格闘家たちと興行試合をしていた時代になる訳です。

 この時代、コロニアルのWASP達の所にやってきた家庭教師を描いた映画に「ミスター・ノース」という物がありますが、この主人公の若い家庭教師はジュウジュツを使います。

 作中では、力を使わず「僧侶たちの護身術だった」物として紹介されているのですが、これが当時の西洋社会におけるジュウジュツの認識だったのかもしれませんね。

 現代でもフランスではこの時代に火のついた柔道は広く普及しており、一説には四人に一人が柔道を経験しているとさえ言われているのですが、ルパンはそのブームの前から日本武道の師範をしていた、と作中で語られています。

 これはどうも、武術家であった彼の父親が心得ていて息子に伝えた物のようですが、恐らくは現地の武術家であった彼に遊行していた日本人が伝えた物であって、正式な切り紙や段位を取得するレベルの物では無かったと思われます。

 しかし、西洋武術の土台とキャリステニクスの身体能力を持ったルパンは独自に研究を重ね、我流の実戦技として磨いたのでしょう。

 小説の中では彼はパンチや脛への蹴りと並んで、投げや喉輪、押さえ込みなどを多用しています。

 また、銭形警部のモデルとなったのであろう彼の宿敵ガニマール警部に逮捕されそうになった時には取り手を逆手に取って肘関節に逆技を掛けています。

 この時の技はあえて浅くかけたのでしょう、脱臼したとは描かれていないのですが、ガニマールの腕を麻痺させて戦意を喪失させたように描写されています。

 この後、得意げにルパンはこれを「日本の腕拉ぎという技だ」と口上を述べているのですが、これはジュウジュツでも初期柔道でもある一般的な技です。

 また、作中での首への当身に関しては「空手チョップだ」と紹介しているのですが、これは時代が合わない。

 空手が加納治五郎によってフックアップされて広まるのはもっと後の時代です。

 おそらくは空手チョップというのは意訳で、元々はジュウジュツの当身か古い時代の柔道に伝わっていた同様の技だと思われます。

 まだ当時の柔道はいまのように競技としてフランスで振興していた訳では無くて、あくまで護身術として目をつけられていたのでしょうから、逆技や当身という今では型の審査でしか行われない物も広く公開されていたのでしょう。

 余談ですがこのジュードー・チョップは確か、60年代を茶化した映画「オースティン・パワーズ」シリーズでも用いられていました。

 相手の首に手刀を打って気絶させるときには「ジュードー・チョップ!」と叫びながら打つのです。(ちなみに背負い投げはジュードー・フリップ)。

 これは恐らく、このルパン的フレンチ・ヒーローを土台として発展したフランスのアクション映画からの流れが繋がっているのでしょう。

 最近亡くなったジャン・ポール・ヴェルモンドがルパン三世のモデルだと言われることが多いですが、反面、彼のアクション映画は土台に初代のルパンがあったということも見逃せない処です。

 と、いう訳で、今回の調査方向はここまで。

 シリーズを読み進めて行ってまた何か興味深いことがあったら続報をお送りしたいと思います。


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