貴族勢力、現政権勢力に次ぐ新しい大統領候補者の傾向が、貧困層からの立候補者です。
フィリピンの上院議員と言うのは、これまで書いてきたように旧貴族出身でかつ富裕な層であるという人々です。
その中で、異例の貧困層出身の上院議員が居ます。
有名な、マニー・パッキャオ上院議員です。
世界的なプロ・ボクサーですね。
単にチャンピオンであったと言うだけではなく、タイム誌ではパウンド・フォー・パウンド、すなわち、もしすべてのボクサーの階級が同じだったら、という過程で最強だろうとさえ言われた、非常に優秀なボクサーです。
かつ、フィリピンではボクシング、バスケット、ビリヤードが3Bと言われて人気スポーツなのですが、このうちボクシングの他にもバスケットでも選手になってかつヘッド・コーチもしており、非常にバランスの良い運動選手であることがわかります。
上院議員でかつ伝説のボクサーという存在なので、彼は国民にとって間違いなく英雄です。
パックマンと呼ばれてみんなに親しまれ、かつあがめられています。
パックマンは、去年からのCOCID下での情勢で上院議員としての収入を対策のために募金し続けています。
フィリピンは私が帰国した数日後から世界的に最も長期間に及ぶロックダウンに入っており、いまでも記録は更新中です。
そのため、収入に困って生活が苦しくなっている国民が非常に多い。
彼らはフード・パックと呼ばれる食料や水の配給によって暮らさないとなりません。
そのような物品のための寄付をしているのですね。
彼は他の富裕層出身の上院議員たちに対して、お前らはなぜ国民が困っているのに給料を寄付しないのだ、と一喝したと言われています。
もう一人の貧困層出身の大統領候補が、マニラ市長のイスコ・モレノ氏です。
彼は私がフィリピンでの五祖拳の研究のために何度も行こうとしては周りに止められていた、トンドの出身です。
トンドと言うのは漢字で東都と表記されて、南宋の時代に金から逃れてルソン島に移民してきた中華系の人々の開拓した土地です。
彼等はトンドを南宋最後の都と呼び、東都王国と呼称していたと言います。
これはアジアの海洋王国文化史上においても非常に興味深い。
そのような、反騎馬民族王朝の革命勢力のアジトとして、五祖拳などの中国武術が根付いていたというので私は行きたかったのですが……現地ではトンドの中華街は最も治安が悪いところとされていて、フィリピンの人々はみんなが行くことを止めました。
当然案内をしてくれることも無ければ、行った友人が犯罪被害にあった話まで聞かせてくれます。
まぁ、要はチャイニーズ・マフィアの本拠地だから、そりゃあなあ。
日本人には、有名なスモーキー・マウンテンというスラムがあったのがトンドだと言った方が伝わりやすいかもしれません。
そのスモーキー・マウンテンで有毒ガスを吸いながらゴミ拾いをしていたストリート・チルドレンだったのが、イスコ・モレノ市長です。
そんな最低の人生から身を起こして、マニラの市長になってからの彼は、清廉潔白な政治家として非常に人々の信頼を集めています。
長期のロックダウン下でも、自ら先陣を切って各地の支持に当たり、私財をなげうって食料を配給していました。
こういった、軍閥や財閥、貴族の後ろ盾のない人々が大統領候補となれるのは、やはり過去の腐敗の構造を切り崩したドゥテルテ大統領の功績だと思うのですね。
イスコ・モレノ市長はもう一人の立候補者、レニー・ロブレド副大統領と仲が良かったらしいのですが、彼女のアンチ・ボンボン・マルコス体制に対して批判をしており「アキノだマルコスだという派閥争いは誰のために行われているのか、考えるべきは国民の幸せなのではないか。私はそういう不毛な政争は大嫌いだ」と発言をしました。
こういう声が国民に人気のある政治家から出て、国が先に進もうと言う意思を見せるのは非常に力強いことだと感じます。
このような流れのある限り、フィリピンは強く発展してゆくのではないでしょうか。
大統領選の立候補は先日締め切られ、2022年6月から新政権に移行となります。
ものすごいスピードで進化しているフィリピンの歴史を、見守ることは、世界の変化の縮図を見るように感じます。
我々も彼らのエネルギーに呼応して、新しい希望を繋いでゆきたいところです。