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ウエスト・サイド・ストーリー 3

 ジェッツの連中はバカだバカだと書いてきましたが、このことは恐らく今回あえて強調されて描かれているように思います。

 というのも、事件が悪化する原因は基本、常にジェッツ側にあります。

 喧嘩の原因になっているのも、彼らが他の有色人種のチームと喧嘩して潰すのがアイデンティティになっているからであろう、ということが描かれます。

 これはすなわち、トランプ政権を支持している白人優位主義者の姿そのものですね。 

 知能が低く、所得が低く、コンプレックスが強い人間が差別主義者になるという通説があります。

 プラウド・ボーイズのような人々はそういう、社会で落ちこぼれて遺伝子にすがるくらいしか希望の持てない人生に陥った人たちだという見方です。

 その集団的ナルシシズムを保持するために、別人種を攻撃するのですね。

 今回の作中でも「俺たちには自分と違う物を見ると拳をぶつける癖がある」という告白があります。

 仕事もしないでこんなことをしている若者が出てきたのは、実は前のパラダイム・シフトの副産物である、という考え方を聴きました。

 フォードVSフェラーリで描かれたことですが、世界大戦が終わった後、復員兵たちは当然結婚し、セックスに励んで拾った命を味わいます。

 結果、ベビー・ブームが起きるのですが、40年代にそうして生まれた子供たちがハイティーンになるころが60年代です。つまり、ウエスト・サイドの時代なんですね。

 大戦が起きて先進国において産業化が先鋭化することで、人々の大衆化が進みました。

 それまでは第二次成長期を過ぎるとすぐに結婚して農夫かなんかになって子供を作って、50代くらいで死んでいたのですね。

 これはいまでもフィリピンなどではそうです。

 10代で出会った異性と結婚して40代では孫が居ます。平均寿命は50代。

 ところが、戦勝国では産業化が進んで中産階級と言う物が増えたために、20前後になっても結婚もせずに「若者」で居るという層が出てきました。

 これが、世界的に見た「不良」の第一世代なんですね。

 日本では太陽族と呼ばれていたそうですね。

 この稿の前の記事で「若い頃のファッションをいくつになっても引きずる」ということを書きましたが、太陽族世代の人たちはいまだにメートルが上がるとアロハシャツを着る。ダッサい。

 ジェッツというのは、アメリカにおけるこの不良の第一世代です。

 対してシャークスというのは、労働者で自警団という、古典期な「ギャング」なんですね。

 イタリアのマフィアであるとか、中国の郷紳と言った地方勢力の人たちです。

 こういう民族的なプロの人たちに、半グレのジェッツと言う構図がこのお話の中にはあります。

 プロの連中は若くても大人なので秩序があり、利益のために戦うのですが、半グレは当時の流行語で言う「理由なき反抗」が動機にあるので、無秩序な破壊そのものを目的としています。

 この流れはやがてもうちょっと知能が高くなってヒッピーになり、反戦や差別の撤廃などを訴えるという形での社会への反抗に姿を変えて行くのですが、第一世代のジェッツにそんな洗練は欠片もありません。

 つまりこれは、パラダイム・シフトにおける分断のお話であるとも読める訳です。

 

                                                                       つづく


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