私も中国武術を継承する日本人として、満州国の問題というのは意識をせざるを得ない問題です。
当時中国の東北三省を収めていた軍閥、東北軍閥とは名ばかりでその実は馬賊の親玉だった張作霖を関東軍が爆殺した皇姑屯事件があり、その後、同様の手口で満州鉄道を爆破してそれを国民党軍の仕業だと言い張って自作自演の「救済措置」に進軍、そのままそこを満州国として強硬独立させてしまった、というのがこの問題です。
なぜここに日本軍(というかその中のほぼ独立軍閥であった関東軍)がウロチョロしていたかというと、日露戦争の折に日本が勝利したため、中露の境にある満州鉄道を獲得することが出来たからです。
ご存知の通り、ユーラシア大陸というのは鉄道で繋がっており、シベリア鉄道に乗ればロシアからヨーロッパにまで至れます。
その動線を確保するということは、飛行機輸送の難しい当時としてはおよそ最大の流通インフラを手に入れたというような物です。
これを独占したいのでその場を国にでっち上げてしまうという以上の手段がこの満州国設立なのですが、ここにはさらに深い意図がありました。
関東軍において実質的なプロデューサーであったと言える石原莞爾大佐は、当時の西側ヨーロッパとソヴィエトの対立を「白人世界の統一戦」と見立てていたそうです。
それが終わって白人社会が統合されれば、白人連合は次にアジア人社会を侵略しようとして全力で攻撃を仕掛けてくる、というのが彼の主張でした。
その目で見るなら、満州鉄道と言うのは中露の境界と言うよりも、白人世界と黄色人種世界との間の境界線だということになります。
なのでその境界を重視して戦線を敷こうとしていた。
そのためのキーワードが「五族共栄」です。
これは日中朝満蒙の五つの国の民族を統一しようという、いわば白人社会連合に対する黄色人種連合を意味していました。
つづく