本日も、ホグワーツ日記からのスタートとなります。
現在、身体を走る経脈とツボの暗記というフェイズにおります。
もう十年以上前から部屋の壁には経絡図が貼ってあるのですが、貼ってあるだけで見てきた訳ではありませんので、一から記憶をさせようとしています。
とはいえ、武術の学習の中でいくつかのツボは教わってきました。
伏兎と言えば下段蹴りで狙う場所で、血海と言えば暗器で打つ場所です。
うーん、断片知識ですが、まぁ、いくつかはこうして覚えている、から暗記のためのリソースを多少節約できている、のかなあ。
そんな四苦八苦の中で思い出したのが、顔にある頬車という穴所のことです。
これは足の陽明胃経にあるツボなのですが、明治の頃に講道館で四天王と呼ばれた強者の一人、鬼横山こと横山作次郎がよく使ったツボだと言われています。
四天王が居た講道館初期は、加納治五郎が柔術を柔道として現代体育に改編した直後でした。
いまでいう東大のエリートとして育った彼は、当時すでに野蛮な物として衰退していた柔術を掬い上げて柔道として近代文明社会に適応させることに尽力した人です。
加納先生の着想は決して柔道一つにとどまった物ではありません。
英才だった彼は洋行で経験を積み、今後の世の中が間違いなく西洋化してゆくことを見抜いていました。
その折に、文明開化の日本人がただの闘争手段として見下げていた武術を、西洋ではスポーツと言う概念として組み替えていることを知って追従した物です。
そのために、実際に生の戦いをするための術ではなく、洋化した近代社会に適応した体育と言う物としました。
これは当時、まだ日本人の頭には無かった概念です。
実戦でもなく、お金のためにする職業でもなく日常習慣として運動をするというのは、ライフスタイルという概念をすでにして彼が見つけていたということでしょう。
そういう意味で言うなら、ジョギングや筋トレ、サーフィンと言った物の元祖がこの柔道であった、と言えるのではないでしょうか。
加納先生はまた、近代国家としての制度の中にこの柔道を取り込んでゆくための運動をしました。
その一つが、警察庁における柔道の公式採用であり、この巧者はそれによって警察官になれるという既得権益ルートの開拓です。
明治のころ、生まれのアドバンテージの無い農家の食い詰めた次男坊や三男坊などは軍隊に行き、旧士族などの特権階級はある種の支配階級として警察官になる、というのが常識でした。
ですので、柔道が上手ければ警察官になれるというのは大変な裏道の確保であったと言えましょう。
もう一つ、彼は柔道が上手ければ骨接ぎ医になれるという職業制度も開発しました。
これは現代でも柔道整復師として国家資格に残っています。
いまにいたるまで彼らは医師以外で保険点数を国に請求できる職業としてうま味を確保しています。
頭でっかちのボンボンではない、加納治五郎先生のやり手ぶりがうかがえる功績です。
さて鬼横山こと横山作次郎もこの骨接ぎをしていたと言います。
鬼と呼ばれるくらいの豪傑で、右翼界隈で幅を利かせていたという典型的なバンカラだった彼がいかに頬車のツボを活かしたかと言うと、辻斬りのようなことをしていたのだ、というのですね。
ガラの悪い人間がいるような所に行って、喧嘩になるようにことを運ぶ。それでまぁそく殴り合いなどになると、横山先生この頬車に平手で当身を入れます。
そこはある種の名人芸で、特定の角度と力具合で打つと、顎が外れるのだと言うのです。
最近はあまり聞きませんが、昭和までの大人と言うのは割に簡単にあごが外れていました。
おそらくは栄養状態の影響なのでしょうね。
そこを鬼に打たれたら堪らない。当然顎が外れます。
当時のことだから、電灯などはなくて顔の判別などよく出来ない状態です。
そのまま蓄電すると翌日、自分の診療所に顎が外れた荒くれ者が治療に来るというのです。
いやー。
まぁ、鬼ですか。