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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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医療系から見たセケン 1

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 ホグワーツに入る前から聴いていたのですが、鍼灸学校には「不誠実な生徒」と言う物が存在します。

 このことを最近、先生から聴いたりこの目で見たりして確認しています。

 ある種の生徒は、鍼の学校だと言うのに人から鍼を刺して欲しくないと言います。

 先生は「一体何をしにきたんだという感じ」だと言っていました。大抵、1クラスに一人くらいはいるそうです。

 またこれよりずっと軽度の人では、他人に刺すのはいいけど自分を刺して自主練はしない、という人もいます。

 理由は「痛いから」「怖いから」。

 自分た痛かったり怖かったりするのは嫌だけど、人にそういう思いを与えるのは構わない、という考えがそこにはありますね。

 それでうまくなれればいいのですが、自分のやり方で刺した時の痛さをフィードバックして刺し方を変えると言うのは自分を刺さないと出来ないことなので、これは効率の悪い学習方法です。

 ましてや、場所によっては失敗すると内臓を鍼で傷つけてしまう事故もありうるので、そういう学習姿勢では当然進級に影響が出て自分のためにならない……。

 先生方、そういう事故が起きないように採点をして進捗を決めている訳ですからねえ。

 結局は人の質というのはその人自身に還るものです。タオですね。

 

 そのようにして、落ちこぼれてゆく生徒が出うると言うお話ですが、鍼灸学校において落ちこぼれてゆくというのは実はもっともっと規模が大きなお話に繋がります。

 というのも、落ちこぼれずに無事に国家資格試験に合格、卒業が出来たとしても、実際にその後に鍼灸医として働くのは、一クラス60人くらいの内に、3人くらいだと言われているのですね。

 およそ5パーセントくらいです。

 つまり、鍼灸を職業とするということだけにしぼっていうなら、およそ95パーセントが脱落するということになります。

 実際、私の知っている先生方も、ほとんどが鍼灸で仕事をしていませんでした。

 そのことを私は事前に周りの先生方から聴いていました。

 なぜそういうことになるかというと、まず第一に、資格を取ってもそれは人に鍼を刺していいという衛生上の資格を得ただけで、実際に治せるようになっている訳ではないからだ、と最初に私に教えてくれた先生は言いました。

 治せるようになるには治せる先生についての修行が必要です。

 しかし、そこで第二の壁があります。

 修行をしようと求人を見つけて就職しても、そこで鍼を打てるとは限らないということがあります。

 皆さんは、整骨院の前で整体10分1000円みたいなチラシを配っているお姉さんたちをみたことはないでしょうか?

 鍼灸院で有資格者として就職しても、実際にはあれをやらされることがあるんですね。

 毎日毎日整体の作業をさせられて、鍼などまったく打たせてもらえない。

「まずは手で治せるようになって、初めて鍼だ!」などともっともらしいことを言われるのですが、ブラック企業のいつもの手口です。その環境では整体師として最低時給位しかもらえません。

 そこが第三の壁です。

 鍼灸医は有資格者でも、手取りは20万程度です。

 40でも50でも家族があろうが子供がいようが20万です。

「修行中なんだから当たり前だ! 金がもらえて勉強できるんだからありがたいと思え!」とまたいつもの手口です。

 この20万と言うのは、ただの物理的な金銭の数字ではありません。

 人権に付けられた金額です。

 ナチスの心理を模した実験ではありませんが、月給20万で雇われている人間に対して、無意識に人は20万円分の値段の人間だと言う扱いをします。

 四十路だろうが五十路だろうが、30代のセンパイに「つかえねーな!」などと言われて雑巾を投げつけられて便所掃除をするというのが修行期間です。

 こういう時代のことを丁稚奉公と呼ぶのはそういうことが理由です。 

 大手の企業バックのチェーン鍼灸院でも、毎年査定に受かり続けて四年くらいたつと、月給27万くらいになるそうです。入学から数えて七年かかって、ようやく年収300万。

 それまでの年収200万円台というのは、充分に貧困だと言えるように私は思います。

 貧困と言うのはサイクルです。

 実入りが無いから生活が苦しくなり、苦しいというのは余剰金がないからなので、そこから脱出するための資金や労力も支度できなくなる。

 この負のサイクルの結果が第四の壁です。

 元々、独立するために修行をしているはずなのですが、そんな生活を最短四年でクリアした後、どうやって開業の費用を調達?

 こういう事情で、鍼灸学校卒業者はどんどんその目的から脱落、ないし離脱してゆくのであり、通学費400万前後とその通学期間三年を回収することはまず難しいということになります。

 そのため、鍼灸師希望者は減ってゆき、私がこれらの話を聴いたころには難関だったと言う学校への入試も、どんどん簡略化されていったと言います。

 異常のことを考えると、これは相当に計画的に人生設計をして資金と労力を計算した上で臨まないと、やっぱり職としてやってゆくという結果にはつながりにくいのでしょう。

 ことに、鍼灸学生は女性も多いと言いますから、高校卒業したばかりの十代の子ならともかく、年齢によっては出産を想定することも重要になっているのでしょう。

 入学後の面接で将来の設計について先生がたに訊かれたので、こに書いたようなことを話したところ「知ってて来たの!?」と非常に驚かれました。

 私はこれまでにも書いてきた通り、学問をすることが目的で入学したので、生業のことは他でどうにかやりながらやっていくし、これは研究者としての活動上の話なので、その後の就職や銭金のことではないのだ、と説明すると、相手の先生も面白い先生でして「箔つけに来たの!?」と二度驚かれました。

 いやいや、そうではありません。

 結果として学んだことを自分の学問にフィードバックしてそれで収入を得ることにはなりますが、その中心となっているのはあくまで自分の人生を草莽の一学究として、真実を追求して送りたいという思いからです。

 なので、いまから上に書いたような施術家としての人生を送ると言うことはありません。

 自分自身に、そういうことが可能かは分からない。

 少なくとも、人権20万の状況での下積みはこの歳では無理ですね。そんなことをしていたら気づいた時にはちゃんちゃんこが赤くなっています。

 すでにセラピストとして活躍されている同級生たちなどは、こうして学ぶことで自分の営業にスキルが追加されるということになるのでもっとスムーズな移行が可能だと言うことなのでしょうが、本当に0からこの分野に進むとなると、おそらくはこういったいくつもの壁に引っかかってゆく、ということが私が入学するにあたって仲間内の鍼の先生方から聞いたお話です。

 しかし、この後、もっと大きな問題がより広い範囲に渡って存在しているということを、このあと思い知らされるのでした。

 

                                                 つづく


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