このところ、五祖拳について色々書いてきていますが、先日、また一つの套路を全套教わることが出来ました。
どうも見ている限り五祖拳には三戦タイプの套路と否三戦タイプの物があるようなのですが、今回の物は後者の印象です。
そして、老師が仰るには今回の套路はとても有名な物であるらしいようです。
偉い先生も表演されていて、かなり格も高いものかもしれないと思えます。
私自身、それを体感する部分がありました。
というのも、五祖拳というのは五祖、つまり、白鶴、太祖、行者、達尊、羅漢の五つの門の総合門派です。
白鶴拳の流れを汲んでいるというのは、見るだに理解がしやすいところです。
太祖拳と言うのも、宋太祖を開祖とする北派の太祖長拳ではなく南派の太祖拳と言うと、これが明の太祖を開祖と仮託した太祖鶴拳と言う派があるくらいでやはり短橋狭馬で鶴拳に近似している印象です。
行者というのは孫行者=孫悟空で猴拳のことです。
一般に猴拳類、行者門と言うと通背拳類なのですが、そこまで猴っぽい感じは五祖拳にはありません。
ただ、跳躍動作がありますので、そこが行者なのかもしれません。
達尊というのは達磨大師のことなので、北派少林拳とかのことなのかなあと思っていたのですが、最近になって南派武術の達尊拳の存在を知りました。
これが、もろに五祖拳そのままで、むしろ中核構造はこちらに由来しているのではないかと思われるような物でした。
特に、母拳となっている三戦に関してはまるまる同様の物が行われていました。
達磨大師の、南方ルートでの仏教伝来説をルーツとして仮託した派なのかもしれません。
そして最後の一つ、羅漢拳なのですが、これこそまさに北派の少林拳、すなわち嵩山少林拳の要素であると見込んでいた物です。
羅漢と言うのは釈尊を意味しており、禅宗の総本山である嵩山少林寺に仏教徒ともに伝わった物だという伝承に繋がりを感じさせます。
また、白鶴拳は羅漢拳を改変した物だという開祖伝説があり、総合鶴拳の縦軸にふさわしい存在のように思えます。
が、私自身これまで北派の羅漢拳をやったことがないので五祖拳の中にその要素を見出すということが出来ませんでした。
しかし、今回の套路では最後にやおら、羅漢勢という姿勢を取るのです。
これは北派少林の流れを組む武術に共通して含まれている符牒と言える姿勢です。
多くの拳法では大鳳天翔と言った形に隠されて埋蔵されていたりします。
しかし、五祖拳ではまんま、嵩山の物と同じ形の姿勢が出てきました。
その後は五祖拳の収式に繋がるのですが、これは関公が髭をなでるという姿勢です。
おそらくは、桃園の契りを義兄弟の結束の象徴とした、革命結社の符牒なのでしょう。
海賊武術らしい身内の表明です。
その前に、とうとう姿を現した羅漢の姿。
釈尊の姿勢。
これで海賊武術の中に、革命結社の尼僧、復明革命組織の意思、道教から仏教に移行した歴史、少林寺開祖の達磨大師、そして仏教の祖である釈尊のお姿があいまみえる様を体感することになりました。
また、震えて気絶しそうになりました。
伝統武術、奥に入ることが許されると目にする物がみな人類の歴史の至宝ばかりとなります。
私のような物にはありがたすぎて仕方がありません。
とはいえ、ただそれを貴重な骨董品のように見なすことは間違っています。
そこに込められた人類の自由への意思という物を抽象し、そのための行として継承してゆくことを最重視してゆきたいと思います。
中国武術は伝統的に受け継がれて来た、人間の生を自由へと導くための行であるというそのことを、決して忘れないようにしてゆきたいところです。