これまで、武術とキャリステニクスについて色々書いてきました、ここであらためて明言しておきたいのが、これらはあくまで「練功」としての物だということです。
なので、ただただ懸垂をすると武術が良くなる、ということではありません。
それはただの力。
いままで繰り返し書いてきてはいるのですが改めて書きます。あくまで私が懸垂をするのは面白いからです。
そして、やるときは普通の懸垂では無くて中国武術の要領としての懸垂として行っています。
鍛えるのは上腕二頭筋や広背筋ではなくて、勁であり把力でありという、中国武術の基礎です。
それらが無ければ、私にとってはまったく意味がありません。
ここは明確に分けなければなりません。
マニラで懸垂を頑張っていて毎週動画を上げているアルニス仲間もいますが、それと私のやっていることはまったく無関係です。
あれはただの筋トレ。私がやっていることとは関係が無いのです。
グローブなどのギアは使いませんし、荷重もしません。
それはただの筋トレ。
タイの訓練施設でも得てして懸垂バーがあり、ムエタイ練習者も懸垂をしますが、彼らの中には割り切って筋弾性を使ってバウンドして身体を上げるそうです。
やり方も、左右の肩にバーを付けるという、明白に首相撲の練習として行っています。
筋トレですらないと言えるかもしれません。
また、自衛隊式懸垂という物もひところはさも恐ろし気に語られていましたが、実際にはこれもタイミングで勢いを使って身体を上げる物で、純粋な筋力の強化と言うよりは持久力の配分や、登攀のための能力を鍛えることが目的であると言った感じです。
このように、同じ懸垂と言えども中国武術式の内功の訓練としての物と筋トレとしての物とムエタイの物と登攀訓練の物と、それぞれ全く違います。
これらが分からずにただただやっていては殆ど意味がありません。
ましてや懸垂はフルストロークできちんとやると、肩の球関節への負担が非常に大きい危険な物です。
私が公園で出会った老キャリステニクサ―のように、肘を伸ばしきらずにハーフ・プルアップでやるならともかく、本気で闇雲にやるとかなり肩の事故率が高まります。
このように、とても奥が深く幅が広いところが懸垂にはあるので、なんでもかんでもと言った形で推奨することは私はしていません。この辺りを誤解されないように今回改めて書きました。
最近、たまたま流れてきた体操選手のチャレンジ動画で知ったのですが、懸垂のギネス記録は30回だそうです。
その動画の選手もきちんと肘、肩を伸ばすフル・ストロークでチャレンジしていたのですが、記録は20にも及びませんでした。
懸垂ってのはそういう運動です。
私自身、体脂肪一桁だって格闘技手時代は20回くらいやっていましたが、これはまさに回数を伸ばすための部活懸垂、自衛隊懸垂の類で、全然筋肉をつけるような物ではありませんでした。本物の懸垂では無かった。
以前、キャリステニクスをしに行った公園でちょうど同じくバーを使いに来た男性と出会ったことがあったのですが、この人は毎日20回でセットを組んで懸垂をしているとのことでした。
痩せていて小柄というタイプではなく、170センチ台、逆三角という体型できれいなストロークの懸垂をされていたので、これは本当に稀有なすごい人に出会ったのだなあと今では思います。
こう考えると、やはり荷重などにはあまり武術的な意味は感じません。ましてやグローブを付けて荷重では意味が分からない。それならウェイトをすれば効率が良いと思うのですけれども。
まずはきちんとしたストロークの懸垂を、それなりの数で出来ることが大切です
それから、グリップを外してゆく。
私は以前は片手でのグリップをしていて、いまは追い込むためにサムレスで行っているのですが、そうやってバーを握らなくしてゆくことが把力の練功になります。
武術では、がっつり握ってはいけません。
モダン系のアルニスなどでは実用のためにガッツリ握りますが、伝統武術的には握力ではなくて手の内を重視するので、懸垂も手の内の遣いを大切にします。
最終的には、出来る人は片手懸垂をします。だからグローブを使っていては矛盾をしてしまうのですよ。
求めているのが掌の力ですので。
私の師父はやはりかつては片手でやっていたそうです。
私はちょっとそこまで行くには自重が重すぎるのですが、いつかそこをと目標にしています。
たどり着かなかったとしても、目的意識を明確にしていればごまかしをせずに正しい方向に向かえますのでこの意識は大切です。
そしてもし、それでもできるという人は今度はサムレスで、というように片手での指を外してゆきます。
そちらの方向性が、武術としての懸垂のベクトルですね。
単純に屈曲力を鍛えれば良いということではありません。
正直非常に大変です。
ですが、正しくないと。
中国武術はひたすら、正しさを求める道なのです。
その姿勢が内面を高めてゆきます。