先日、学校が終わった昼過ぎにぼんやりしていると、師父から「今夜どうですか?」とお呼びが掛りました。
二つ返事で夜にお伺いして、以前から教わることになっていた新しい套路を教わりました。
それが終われば、今度は以前に教わっている物の老架が二つ待っています。
このように、私が何を学ぶかは師父によって既に決められています。
伝統武術の継承者は、多分ずーっとそれが続きます。
そして、次の練習がいつかは分からない。
前もって予告は無く、不意におよびが掛かります。
以前は一年まったく連絡がないこともありました。
その間、いただいた物をひたすら身に着け、教えていただいた物を心に行きわたらせて、人生そのものにしていきます。
今回の套路も非常に素晴らしい。
やっていて大変に気持ちが良いし、滋味がある。
体得すれば、これを自分の生徒さんに手渡すことができるのも私の大きな喜びです。
次の誰かを幸せに出来る。
この、過去から次への受け渡しが伝人の、すなわち私の役割です。
練習をしていると、師父が夏場に香港に居る大師から連絡があったと言われました。
大師と師父の間でも、私と師父の関係と同様の物が築かれています。
今回の大師からのお話で、私が洪拳を習えるようになったと師父は嬉しそうに言われました。
うちの一派は、香港の大師が学んだいくつもの武術を継承しています。
初心者向けに詠春拳を教えるのがもっともビジネスとしてはやりやすいらしく、これは大師の上の代から行われています。
大師自身はその他のいくつもの香港と広東の武術を学び、また北京に出て北派の武術も継承されています。
それらの内から、下の師父たちはいくつかを継承して自分の武館を立ち上げます。
私が最初に指導をお願いしたのは、洪拳と蔡李佛を継承されている師父でした。
しかし、その先生はそのころすでに教室を閉じてしまっており、教えることを辞めてしまっているとのことでした。
代わりに、別の先生を紹介するということで引き合わせてくださったのが師父です。
師父は洪拳は受け継いでおらず、蔡李佛拳と客家拳を継承されていました。
他に洪拳を継承されている先生も居たのですが、師父が一番上の師兄だったので紹介してくださったのでしょう。
そのまま私は師父の下に就くようになり、いまに至っているという次第です。
師父は、私に洪拳はとても合っているとおっしゃり、きっと気に入ると言われました。
早く教えたいので、いま教わっている物がおわったら順番を差し替えてすぐに伝えて下さるそうです。
私が蔡李佛の師父になった時は、まだアルニスのマスターではありませんでした。
なので師父が蔡李佛と客家拳の両方の師であることがまぶしく見えました。
師父は元々現代武道の有段者で、学生時代はテコンドーのチャンピオンでした。
それが両方とも手放されて、いまでは柔術の師範と太極拳の指導員もされています。
沢山の人に、それぞれが必要な物を手渡して道をお示しになられているのでしょう。
私もいずれは、また多角的な視点から比較文化研究を行い、それを人類の集合知の一部として還元することができるようにと思ってこの道を歩んでいます。