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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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運動能力と大きさの話 2

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  前回、ジャック・リーチャー対大男の話を書きました。

 その大男、190のリーチャーに対して210センチくらいあります。

 体重は110キロ以上。

 興味深いのはこの巨人(作中で繰り返しそう書かれる)に対してリーチャーが「ボディ・ビルダーではなかった。普通の人間の身体のまま巨人になっていた」と感じていることなのですね。

 以前に倒した小人のボディ・ビルダーとは違って、体型自体は普通なのです。

 おそらく、彼が巨人のボディ・ビルダーだったら運動能力は著しく下がっていたことでしょう。

 そうではなく、普通の体型だからこそ身のこなしが良く恐ろしいのです。

 何しろリーチャーは彼と格闘戦をすることになります。

 相手も銃は使いません。

 この理屈も面白い。

 そのサイズの人間が指を通せる銃が、舞台であるイギリスには存在しないというのです。

 イギリスはアメリカとは違って銃社会ではありません。日本と同じです。

 ですので、法をかいくぐってなんとか手に入る粗悪な払い下げ品のような銃器では、彼の身体に適応しない。

 巨人の不便さが描かれています。

 また、このサイズのために、巨人は関節の節々を慢性的に痛めているという憶測があります。

 重力との兼ね合いの問題です。

 このサイズの人間は人類の骨格にも向いていないのです。

 

 少し話跳びまして、先日たまたま、昔のk-1グランプリの試合を観ることがありました。

 当時のKー1の試合だったらなんでもよかったのですが、20年前にシリル・アビディ選手に似ていると言われたことがあったので、彼の試合をいくつか確認しました。

 そこで驚いたのは、Kー1選手の身体が一律細く見えたと言うことです。

 細いと言うと言い過ぎですが、決してマッチョには見えない。

 みんな腕や胴が長く、なんだかぬるりとした身体です。

 胸は平たく、腹筋に深いカットなどは入っておらず、広背筋が肥大した選手などはおりません。

 逆三角形のマッチョは一人もいませんでした。

 大型であるはずのジェロム・レ・バンナ選手でさえ、肩回りが分厚いけれども決してボールのような筋肉が盛り付けられた体型ではありません。

 気づかない間に、私の目は毎日ユーチューブで観ている筋トレ界隈の人たちに犯されて、フィジークやボディ・ビルの体型が基準になってしまっていたのですね。

 彼等の体格と較べるとKー1選手の身体などは、まったく運動をしていない一般人の身体のようにさえ見えます。

 しかし、それはまったくのルッキズムです。

 実際には、ボディ・ビルダーたちはステロイドで筋肉を肥大させ、外形を逆三角にしているだけで、本当に運動能力があるのは当然k-1選手の身体です。

 戦うのに、ボディ・ビルの筋肉は必要ないのです。

 まさにジャック・リーチャーが言うように、ボディ・ビルダーの身体ではない、普通の人間の身体のままスーパー・ヘヴィ級だからこそ、彼等は強い。

 私も当時はそういう身体でした。

 メリハリのないのっぺりした体格です。

 いまの私の身体は、明らかに格闘技には不適応であることに気付かされました。

 こんな大胸筋は要りません。

 まぁ、Kー1選手と違ってレスリングからの総合格闘技でしたから、厚みの種類は違うのでしょうが、それでも明らかに戦うための身体ではないことは間違いありません。

 本当に、いつのまにか日本でも筋トレはメジャーな文化となりました。

 あちこちに簡便なジムのチェーン店があり、サラリーマンや女性が使いやすくなっています。

 それらのマシンやウェイトでルッキズムのために造形された肉体がどんどん当たり前になってきています。

 何の選手でもない若い女の子たちが、当たり前にお腹を出して割れた腹筋を見せながら歩いています。

 こういう、見せ筋というカルチャーが浸透したことで、私たちはより身体という物に近しさを増したように思います。

 そのような、美観に向かって作られた身体、見かけよりも動ける能力を重視した身体、ひたすらパワーを追求した身体、様々な人々が自分の身体と向き合って、自分の方向性という物に自覚的になるのは、ちょっと面白い時代だなと感じさせられました。

 私の身体は、伝統的に作られた、哲学をする身体です。


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