前回から「太極」を紹介していますが、この作品の面白いところは単に反清複明の反体制映画に回帰したということではなく、敵方の攻撃者に対して非常にしっかりした書き込みがあるということです。
初めの政府からの侵略者は、ヒロインの婚約者で清朝に勤めることになった若者です。
彼は生まれ育った陳家溝を良くしようとして文明開化を推し進めている天才科学者なのですが、元々マッチョで封建的な陳家溝ではひ弱なインテリとしてバカにされていた因縁もあり、また国のためを思う大志もあり、地上げ政策の使者として退治することになります。
しかし、ひ弱な科学者がどうやって、というと、これがなんと、蒸気機関で作ったロボットで攻撃してくるのですね。
タイムボカンに出てくるような顔からアームが生えたようなメカが、自分で線路を作りながら北京からシュポシュポ走ってきて訪れると言う実に面白いギミックの存在です。
そう、この作品、武侠スチーム・パンクというとても面白いジャンルになっているのです。
他にも、村を捨てた陳家の継承者がパワード・スーツで強化されて攻撃して来たり、蒸気式の飛行機が出てきたりととっても自由でわくわくする要素が詰め込まれています。
ね、面白そうでしょう?
そんなこんなで次々と訪れる困難を乗り越えた主人公は北京に行き、内家拳の秘伝を伝えると言う八卦掌一門と拳を交えてその極意を身に付けようとします。
八卦一門は北京のあちこちでお店を開いている拳師に伝わっているので、順番に勝負を挑んでゆくのですが、最終的には紫禁城で役人として働いている宗師と戦うことになります。
そしてそこで腕を認められて「もはやお前の武術は上乗に至った。陳家拳などと名乗る物ではない。これからは太極拳と名乗るがよい」と許しを受けてのおしまいです。
これ、楊露禅が陳家溝で乞食に身をやつして武術を盗み、後に紫禁城で八卦掌宗師の董海川師と戦ったと言う、昔の武侠小説「偸拳」が元ネタですね。
そういう、古い武侠定番故事を元にスチーム・パンク・コメディに仕立てている。
こういう映画が出てくる時代になっています。
いやぁ、功夫映画にとっては最高の時代かもしれません。