私たちのような若者には、大金を手にすると言うような計画は非現実的です。
それをしようとしてギャンブルにつぎ込んだり犯罪に走ったりするような仲間は大抵失敗してきました。
それに、犯罪の世界はサラリーマン社会以上に封建的で窮屈です。その上、刑務所に入る可能性も高いとなると人生を通して非常に不便で息苦しい暮らしをする目算が高いので論外。
となると、腐った社会となるべく関わらずに暮らすには自分の内面を掘り下げてゆく方が効率が良い。
自分が本当に欲しい物だけをえりすぐって獲得し、静かで小さな生活を送ると言うことを模索することになります。
そのような暮らしが、私たちのパーフェクト・ライフでした。
家賃は安いところが良い。ただし、自分が好きな山か海かの傍に住む。そうすれば毎日、ただそこにいると言うだけで幸せな気持ちになれます。
通勤時間を理由とした便宜上のアパートに住む必要はなくなります。
また、私たちはバイク乗りの集まりだったので、電車の駅近くに住む必要もありません。
仕事は一人でまかされるような物がいい。
仕事が終われば後はお金のかからない趣味で魂を安らがせる。
ネット環境さえ確保すれば、R&Bを聴きながら本を読むくらいの生活は安価に送ることができます。
身体を鍛えれば、自己向上の喜びと健康問題を両立させることができます。
例えば重機の免許を取って、毎日一人現場に行って土地を切り崩し、それ以外の時間はサーフィンをする、そしてある朝、波にのまれて海から帰ってこなくなる。そういう物が私たちのパーフェクト・ライフでした。
また、それでも日本円はまだ力があったので、なんとかして言葉を覚えて海外の僻地に住処を見つけると言うことも想像しました。
アイルランドかどこかの岬の傍で、羊か何かを飼って生活をして、週に一回近くの町に出て日用品を買い込んでまた自分の住処に戻り、牧畜をしながら棒術の練習や瞑想をして暮らす。そしてある時、町の人たちが「そういえばあの外れに住んでいるおかしな東洋人を最近みないな」と思って様子を見に行ったら死んでいた、というようなことがパーフェクト・ライフでした。
そういった計画の結果、隠棲生活をして、遠くから世界に善意のボランティアをしながら、やたらに俗世とは関わらず、自分の学問と武術をして暮らすといういまの私の生活のプロトモデルが出来ました。
ヴェンダース監督の映画「PERFECT DAYS」はそのような私たちのパーフェクト・ライフを思わせる印象がありました。
つづく