一つ前に気が重くなる記事を書いたので気分転換に軽い物を書かせてください。
先日、友人の哲庵先生から突然北斗の拳についての解説を求められました。
と、いうのもどうも先生、お笑い芸人のがっき~君という方がお気に入りのようなのですが、この芸人さんが北斗の拳に出てきた人気キャラクター、レイの物まねでパネル・トークをするというスタイルなのです。
いや、何を言ってるのかよく分からないということはよくわかりますが本当にそうなんです。なんでそんなこと思いついちゃったんだろうこの人。
そのレイと言えば、シャオー! という掛け声が特徴的でして、その声について「これは南派の掛け声なのか?」という疑問を持たれたようなのです(大要)。
もともとこのシャオーは原作にもあったのかな? アニメ版オリジナルの演出かもしれない。
とはいえ、なぜシャアなのか。
中国語で殺というのをシャアと発音する場合があります。
我々南派拳法の地域でいうとサァです。あの卓球の掛け声の「サーー!」です。
ただ、この中国の殺はKILLの意味とは少し違うニュアンスがあって、「戦う」という意味だそうです。FIGHT! ですね。
我々蔡李佛拳では、シャオは思い当たりませんが「シィッ!」と言う発声があります。
「シッ!」と短く発音するのではなく、最後に小さく「ク」を付けるように「シィィィーーーッ(ク)!」と言います。
北斗の拳のシャオーはアニメですが、元になった中国武術の発声をさぐることはできます。
レイに対してケンシロウの「アタ」ですが、これはご存知の通りブルース・リーがモデルになってますね。
そのブルースなのですが、実はカンフー経験は非常に短いものです。十代のころにはもうアメリカに移住してしまっているので、彼の武術はアメリカではぐくんだもので、メインとなっているのはアメリカン・カラテでした。
彼の独自のアタ! や怪鳥音に関して、本人は「アメリカン・カラテでやっているのをまねた」と言っているそうです。
ケンシロウの動きは、ブルースを意識しているので、当然アタタもその動きに対応したものになります。
そしてそのケンシロウの動きは、わりに西洋スポーツやカラテの動きがメインです。
ただ、ブルース自身は映画の中では、中国拳法の動きとして南派の短勁を模倣した動作をします。
コマ落としのような素早い動きですね。さすがにあれをアニメでしたら手抜きだと思われてしまいそうですが。
となると、短いキビキビした動作と緩急のある動作のイメージがケンシロウの中で混在します。
「アタァ!」と一瞬で相手を刺している。
それに対してレイの動きは流線的です。
素早いのですが、コマ落としのような瞬時のON-OFF的な動きではない。
動作をON-OFFしない、暗い勁を使う我々の動きは、このレイタイプです。
となると、掛け声もまた瞬間的な「アタ!」ではなく「シィーーッ」!!」となります。
長く発生している間のどこで接触しても発勁します。
これ、考えてみれば心意拳の特徴である掛け声「イィーーーーーーーーー!!」と同じです。
雷声というのですが、短く切らずに長く発声します。手の運動自体は短いのに。
そしてこの心意拳こそ、暗い勁の武術です。
これが心意把として少林寺でも行われており、明の勁を暗に転じるための練功として行われていた、というのがここでも書いてきた南派拳法の歴史です。
少林寺が焼き討ちにあったときに、秘伝を南に逃がしたものが南派少林拳のルーツだと言われており、私たちの拳法の中核が心意把である、というのが、繰り返し書いてきたことです。
このように、歴史を背景に発生したこと、およびそこから生まれたフィクションをたどると、結構面白い符号を発見することができます。
さらにいうと、南派と言えば看板になっているのが大きく足を開いた平馬という立ち方ですが、これ、北斗の拳の南派拳士はしませんね。
彼らはみんなかっこよく足をそろえてモデルのように立っています。
実はこれ、暗勁の特徴なのです。
明の勁のように大きく足を踏み鳴らして打たなくてよくなると、両足を点のようにそろえて立ったり、片足で立っていても勁が出せます。
心意把というのは、足を踏み鳴らす稽古ではなく、このための練功法だと解釈しています。
少なくとも私は心意でもっとも重要なのはそこだと言いつけられてきました。
平馬というのは、実は足を移動させていない、すったちの強さを養成する立ち方です。
そしてその功が形になると、両足をそろえて立ったり片足で立ったりするのです。
このことを、鶴になぞらえて、平馬の羅漢拳からすったちの鶴になるということで「羅漢化鶴」というそうです。
両手を翼のように広げていましも飛び立ちそうに立った姿。まさに南斗聖拳のイメージでしょう?