たまたま公園や山で練習をしている人を見つけて入門した。そのような話をよく聞きます。
実際に、そのようなことは日本では昔から一般的であったのだと思います。
私のフィリピンでのラプンティ・アルニスとの出会いも似たようなものと言えば似たような物です(実際には向こうでは国立公園がこちらでいう公民館や公共体育館のような存在なのですが)。
しかし、これは日本における中国武術ではまず絶対にするべきではないことです。
中国でも公園で練習するのが一般的であるため、日本に来ている外国人のグループでもそうしていることはままあると思うのですが、先生が日本人である場合はまず気を付けた方がいいです。
それは、日本人師父である私の立場からしても、かならず確認してほしいことがあるからです。
それは、その先生が本当に先生なのかどうか、ということです。
何派の何拳の何世の伝人であって、正式に教授資格を得ているのかことを知らなければ、偽物である可能性が高い。
偽物とはつまり、その人自身も先生どころかただの修行者や下手をすればただのファンに過ぎないということです。
日本武術では現在創作新古武術が流行しており、外国武術では公認の練習会などもあるようですが、それと中国武術とでは話がまったく違います。
最近、私が中国武術の最初の基礎をお渡ししたある方は、現在身体がみるみる変化してきていると以前に書きました。
その方、最近急に体が虚脱状態に入って震えてくるような経験をされたそうです。
これ、よくやります。
本物の高級中国武術では、換骨、換勁、易筋、洗髄などと言って、肉体を改造する練功法を中核としています。
それには改造過程でとても負担がかかります。
成長期のころを思い出してください。ひどくおなかが減ってとても眠かったでしょう。
あれと同じようなことがもう一度起きるので、それまでと同じ生活をしているととても疲れるのです。
きちんとした内容を習得している本物の師父ならそれが分かっているので、練功の注意を促したり、回復させるための注意を随時くれたりします。
中国や台湾でなら日常の習慣として飲んでいる漢方の処方も教えてくれるのですが、日本ではそれがまだ難しいだけに、余計に慎重な練功の管理が必要になります。
しかし、なまはんかの偽物先生はそういったことを知りません。
そうなると内臓や自律神経を損なって終わりです。
以前にも、習っている人に習っていた人と話を聞いたのですが、やはり神経がおかしくなりかけていたとのことでした。
そういう野狐禅には厳に注意が必要です。
中国武術は、格技ではありません。
これは日本では本質的にまったく理解されていないことです。
本物の中国武術は行です。
ぶったりけったりの練習をする映画ごっこではないのです。
それは例えるなら、茶道や着付けに共通します。
両方とも、決してバリスタやファッション・コーディネートではありませんね?
ある思想の体現としてお茶や和服を媒介としているのです。
中国武術もそれと同じです。
少林拳なら禅を、道教系の拳法ならタオの行を意味しています。
偽物先生にはそれがわかっていない。
まがい物の格闘技ごっこで止まっていては中国では本物の武術とは言わないのです。
そのような物は、戦国時代までに行われていたものです。
石弓で撃ったり戦車で轢いたり、狼牙棒というトゲトゲのついた兵器で人を引き裂いたりします。
そういうのが中国でいう実用の武術です。
それらはもう、はるか昔に通り過ぎた結果としていまの中国武術があります。
その中核は思想の体現であり、基本は健身です。
そのために、そうではない防身術(護身術)はきちんと「これは防身の術ですよ」という説明が必ず付きます。
それらの物は、思想は後回しで身体にはあまりよくないことでも納得して行います。中国の人は合理的です。
そういう物は、高級武術とは呼ばない。本物は、思想が必ず語られます。
もしそういうことをまるで知らない、あるいは教えない先生が居たら、それはちょっと気を付けた方がいいかもしれません(回族拳法や少数民族武術など例外はあります)。
中身を知らない先生のもとに居て時間や労力を無駄にするのも気を付けるべきなのですが、生半可なレベルの先生のために神経を偏重させてしまったときに、治す方法を教えてくれないのが恐ろしい。
私の知っている例では、脳をやられて死亡してしまった例と、歯茎が腐って歯が抜け落ちたという例を聞いたことがあります。
私がついていた先生方はそういうことをきちんと教えてくれて、だから危険な練功はしてはいけないときちんと注意してくれる先生方でした。
ネットの世界では「我が流は中国拳法と○○を融合させた最高の武道である」とか「カンフーと××をミックスした最強の格闘技である」と豪語する先生方に出くわすことがあります。
私はそのたびに頭を抱えたくなります。
何もわかっていない。
中国武術が何かをまだ知りもしていない状態の発言です。
何も学んでいないのです。
もし公園で自称中国武術の先生と遭遇したら、きちんと様子を確認してみてください。
もし言動や表情などがおかしければ、その先生自身がすでに神経がおかしくなっている可能性があります。
間違ってもそういう先生のところにつかないように気を付けてください。
繰り返しますが、正統の中国武術は格闘技ではないのです。
多数の兵器を含み、防身術どころか奇兵や暗殺法なども含む技術体系があり、決して安全な範囲で技を交換することを前提に出来ていません。
以前に現代武道のベテランの方に発勁を手ほどきした折、鍛えられた胴体の筋肉に軽く打ったのですが「あぶねぇよ師父、こんなん組手で使えねぇよ」と言われたことがありました。
はい、もちろんです。本気で出したものを食らった相手が安全な状態である技を練習していませんから。平凡なただの発勁一つとっても、そうやって交換できるようにはなっていません。
もし格技がやりたいのなら正々堂々総合格闘技でもされてください。苦しい基礎練習をして痛い思いをして、敗北を繰り返しながら目的に向かうべきです。
楽して強くなれるのが中国拳法ということでは決してありませんから。
何もしていないのにしている振りをするための物でもありませんし。