中国武術が他の格闘術と比べて特徴的なことの一つは、套路の存在でしょう。
もう少しよく知っている方は、歴史や文化、思想などを挙げるかもしれません。
より即物的な技術面で言うと、二つの特徴があると思います。
それは、発勁と橋法です。
発勁はご存知の通りですが、橋法は実際に中国拳法を知っていないと分からないかもしれません。
これは功夫映画での攻防などでよく見る、腕を絡めあったりはじきあったりしての攻防です。
フィリピン武術などにも取り入れらている、実用面での徳が高い戦法として知られています。ボクシングなどでは見ない手法ですね。
もちろん中国武術には沢山の派がありますから、扱いの比重にはそれぞれ差異があります。
一対一での橋法を練習の中核に置いた派もあれば、速度を重視して一瞬しか用いない派もあります。
福建系の拳法でも、詠春拳は橋を重視していて、ほぼ同種である鶴拳や白眉拳は一瞬系のように感じます。
橋法の練功には木人が有効なようですが、詠春拳と並んで木人で知られている拳が蔡李佛です。
蔡李佛では特徴のあるからくり仕掛けの木人を使って橋法の練習をします。
ただ、これも蔡李佛の中での派によってその重視のされ方が変わっています。
私たちのグループではさほどに橋法にこだわってはいないのですが、本来は洪拳をはじめ蔡家拳、李家拳、佛門掌に鶴拳などを統合した、全方位的に備わっている門派のため、教程の中に含まれているのです。
特に、腕試しで知られる北勝館系列の蔡李佛では橋法を多用するようですが、多人数の乱戦を重視する鴻勝館の私たちは、さほど橋法に執着しません。
喧嘩の北勝館、練功の鴻勝館、言われる通り、練功で練り上げた勁力でフっ飛ばしてゆくことを主としています。
土台となった洪拳でもはじめは橋法などを行いつつも、功が養われてゆくにつれて鉄線の勁の威力を重視するようですが、私たちはまず強力な勁を求めつ、それがあった上で勝手が良いように橋法を学んでゆきます。
相手のブロックの上から発勁して倒してしまうような戦法もこの思想の上にセットされています。
また、全身を勁力の鉄球にするという勁力が成ってくると、交差する時点では橋法を用いることがあっても、そのまま鉄球で轢きつぶすように密着の距離から体ごとぶつかっていって倒してしまうため、距離を維持して橋法で攻防すると言ったようなこともしなくなります。
あくまで橋法は予備の教養的な位置にあると感じます。
このために近場で攻撃をしあっては手さばきでしのいで打ち返す対打練習を短打練法と言います。これを練ると戦いのタイミング感や距離の感覚を身体に慣らすことがしやすくなります。
決して囚われてはいけませんが、経ておくべき段階の技術です。
ここにも五獣の相が現れているように思います。
離れては象のように薙ぎ払い、間合いがあるときは鶴のようにはたき、または蹴り、蛇のように滑り込み、豹のように飛びかかり、虎のように喰らいついてゆきます。