今回の都内での練習会も天気に恵まれました。
むしろちょっと日に当たって弱ってしまいそう。
その中で、参加者の皆さん各自の課題をブラッシュアップしました。
練習場所で各自が勝手に自分のことをそこここでやるというのは典型的な中国武術の練習状況です。
合同でやるのは対打などの時で、今回はアルニスの練習と、摔の打ち込みがその時間となりました。
アルニスは常にそういう物だとして、摔が今回のちょっとしたトピックです。
私が習った段階で言うと、摔はかなり後の方の部類です。
まずはとにかく勁と気功、技術としては打を主眼に行ってゆくのですが、そこが一定まで形になると摔に変化します。
やってることはそれまでと同じなんですが用法として投げ技に応用されるのです。
これは直接まず狙うものではなかったのかもしれないのですが、実はとても重要な物です。
相手の中門に踏み込んでゆくにおいて、組むことに自信があるかないかで大分思い切りが変わります。
スタンダードな戦法としてはその間合いは頭打や靠を行ういます。
相手を拿字訣、つまりひっ捕まえで固定しておいてから頭突きや体当たりをかます。現代格闘技に目を洗脳された現代人にはちょっと想像を越える部分がありますが、中国武術ではわりに一般的な技法です。
ヒット作「少林サッカー」にはまさにこの頭突きが得意な鉄頭功のアニキというキャラクターが出ていましたが、香港アクションにおいて頭突き、体当たりはとてもメジャーです。これは実際のカンフーがそうだからです。
この時に、相手が避けたり受け止めたりすると、お互いにもみ合い状態になってしまう。
それがあるので、摔(投げ)に慣れているかどうかは重要な抑えとなります。
この摔は、柔道の投げとはちょっと似てないかもしれません。
端的に言うと、荷運び労働に似ています。
昔の少林寺では水を入れた樽を抱き上げて練習していたようです。
これが得意になれば、思い切り大きく打ち込んでいく錘を受けられても、そのまま相手を抱き込んで放り投げることが容易になります。
この時の手法はどうも、モンゴル相撲のブフからの影響が強いそうです。
モンゴルの騎馬民族が馬賊活動を働く時の、すれ違いざまに相手を鞍から担ぎ上げるような技に原型が見られるように思います。
また、さらにその原型には家畜の扱いがあると聞いたことがあります。
遊牧をしている羊などを持ち上げて運んだり、毛を駆る時に転がしたりする動きがこの手の投げ技のルーツだと言います。
動物というのは四つ足なので、柔道のようには投げづらい。
それよりもレスリングのグレコローマンのように、仰向けになるように転がすための方法が摔には共通しているように思います。
そのためか、やられる方はきりもみ状態になって受け身が取りにくい部分があります。
そういった物が中国で摔角という組技武術として発展したと聞きますし、そこでは投げは行っても寝技はあまり重視しないと聞いたことがあります。
考えとしては、投げる時に投げ殺しを行うか、投げたらすかさず当身を入れるためだと言うのです。
我々日本人が思う受け身を取ると「身体を開くと急所が丸出しだからやられるぞ」と見なされるというのです。
この辺り、うつ伏せに相手を制圧して制圧する日本武術とは考え方の違いがみられます。
アウトボクシング的な打ち合いをするのではなく、獣が獲物を捕らえるように相手に向かってゆき、倒すまであらゆる攻撃をおこなうような要素が我々の武術にはあります。
これを文字通り「飢虎擒羊」と言います。身体を遠くにして手や足で打つのではなく、体ごと相手にぶつかってゆく。
これを心意では採字訣と言ったり、虎撲と言ったりします。
撲とは撲るという意味ではなくて、獲物を捕食するという意味です。
この勇猛な戦法を、小柄な広東人の海賊たちが船上で行っていたということを考えると、懐にぶち当たっていって堪えられたらそのまま担ぎ上げてぶん投げるという姿が見えてきます。
基本姿勢である平馬が、不安定な足場で取っ組み合いをするにはさぞや適していたことでしょう。
身体の基礎を練るためにも摔の練功は実に有効であり、私は非常に好むところです。