そのような「群れ」であるゾンビですが、これが呪術ではなくて科学的な要因によるものだと分類されがちなのが面白い。
これは、60年代、70年代のホラー映画がオカルト映画ブームであり、悪魔や魔女、死神という呪術や信仰に属する物が多かったこととは対照的です。
科学的な要因としては主に、宇宙からの放射線か生物的な細菌による物が多いのですが、主に後者がスタンダードだと言えるでしょう。
その中でも一時いくつかの作品であったのが、アフリカにサルがかかる病気がありまして、感染したサルにかまれた結果人間にもうつってゆく、という物です。
これはつまり、エボラやエイズが当時そのような病気だと思われていたことが流用されているのですが、その裏のテーマとして「もともとアフリカの黒人の病気」という発想があります。
つまり、サルみたいな奴らの病気がうつる、という差別的な考え方です。
さらに言うと、エイズはかつて同性愛者がかかる病気であると言われていました。中には神の裁きであると言う人さえいました。
要するに、トランプ政権支持者の原点の人たちの差別意識がモンスターとして表現された物である、ということですね。
ゾンビの特徴は、噛まれると感染する、ということです。食べられると増えると言う不思議な現象でして、普通は食べられたら減るんじゃないかと思うのですが、食べられると増える上にお互いは食べないという作為あふれる設定となっています。
この、噛まれると増える、という感染は当時の差別主義者からみたモンスターどもというのが、共産主義者や黒人解放主義者などであり、旧体制を揺るがしているという恐怖がそこに反映されているのを見ることが出来ます。
60年代末から70年代という時代はカウンター・カルチャーの時代です。
それまでは正義の西洋圏が悪の帝国を駆逐して世界を良くするのだと考えられていたのですが、その過程における「グッド・ウォー」こと第一次大戦ももちろん第二次大戦も、単に人間同士の争いでありそれまでの粉飾は嘘だった、というのが若者たちにばれていった時代です。
悪の帝国であるナチの一味のアジアの黄禍どもの国に新兵器をかっこよくお見舞いしてノックアウトしてやったぜ! と思っていたことが、もっとずっと沈痛な原爆災害であったことなどが理解されていった時代なのです。
戦争は騎士同士の名誉ある戦いでも、カウボーイの勇ましい決闘でもない、民間人の虐殺だと言う価値観にスライドしていった過渡期です。
そのことをベトナム戦争がオンタイムで行われている中で若者たちは気づいていった。だから嘘ばかり行って粉飾していた自国の歴史観に反発していたのですね。
フラワー・ムーヴメント、ヒッピー・ムーヴメント、ニュー・ウェーヴといった運動と思想です。
この、体制の嘘がばれちゃった過程には、ニュースなどで「悪のベトコンどもをやっつけてやったぜ!」というアナウンスと一緒に、明らかな民間人の子供や農夫が空爆で焼き殺される映像がガンガン報道されていたことが関係しているようです。
旧来の愛国的なプレ・トランプシンパではない人々には「あれ、これちがくね?」というのが分かっちゃったのですね。
だから若者たちはカウンター・カルチャーや共産思想に正統性を見出して運動をして、国中にそのような思想を持つ人々が増えていました。
そういった得体のしれないまったく考え方の違う群れが、ゾンビの原風景となったようです。
だからゾンビ物というのは、アフリカからやってきて国内のマイノリティに感染し、普通の白人種を考える力を持たない暴徒の群れにするという過程を経て、最後には日本に落とされたのと同じ核兵器によって終わるのです。
つづく