ドラキュラにはたくさんの特徴がありますが、その中でも感染する、人間が違うものに変化してしまう、という部分を引き継いだホラーモンスターがゾンビだと言ってもいいでしょう。
いわゆる吸血鬼とゾンビの違いは、個体の個性が薄く、群体であるということでしょう。つまり、松浦亜弥ではなくてモーニング娘。的な存在です。なんだそれ。
吸血鬼伝説が中東からやってきて、ユーラシア大陸における未知の価値観が自分たちの生活領域に蔓延してゆくという不安を描いていたのに対して、ゾンビというのは大抵南方に由来します。
これはもともと、ヴ―ドゥというアフリカに由来する信仰の中にズンビーという物があったためだと思われますが、ここで一度以前に書いたアメリカ史を振り返っていただきたく思います。
独立戦争前後に、南部にフランス領のアメリカの州があったと書きましたね。ケジャン地方と呼ばれる辛い料理で知られる地帯です。
北米においてはここを中心にヴ―ドゥは存在していました。
アフリカ系の人々の間の信仰で、白人種に対して呪詛をしているとの噂が立っていたのですが、調査をしていた学者に対してある黒人の老人が「あれは本当はあんたたちが伝えたキリスト教なんだ。本当はヴ―ドゥなんてものはないんだ」と答えたという話を読んだことがあります。
ヴ―ドゥのルーツをたどると、元はアフリカの土俗信仰だったそうなのですが、奴隷売買でアメリカ大陸に連れられてきた後、スペイン人からカトリックを伝導されたのが混交して異端の聖人信仰になった物だと言われています。
私の好きなキューバのダンスでは、サンテリアという物があり、これはやはりアフリカの信仰にキリスト教の聖人信仰が混ざったものに伝わるダンスです。産鉄神やトリック・スター、雷神などの神様の舞です。
同様の物はブラジルにも伝わっており、アフロ・ブラジリアンとしてサンバのカーニバルでも踊られているようです。
また、マンボという音楽ジャンルが有名ですが、このマンボというのはこれらの信仰の女性司祭の名前で、やはり呪術の儀式の舞踊にルーツがあるそうです。
そういったアフリカ由来の信仰にある呪術というと、映画のパイレーツ・オブ・カリビアンの原作小説にはボコールと呼ばれる呪術師たちが登場して、ラムとチョコレート、火薬を摂取しながら精霊を呼び出す術を行使します。
この精霊の一つが死者を蘇らせてゾンビにすると言われています。
もともとはこういった呪術師を媒介とした共同体において罪を犯した物に対する刑罰として行われていたと聞きます。
死した後、意思を持たない奴隷として使われるということなのですが、これはアルカロイドというふぐ毒にある薬品を与えることで一度仮死状態になったあとに脳に障害を持った状態で蘇生するという仕組みで行われていたと言う話です。
しかしこのようなシャーマニズム的なゾンビというのはほとんど伝わっておらず、現代社会で一般的に広まっているモンスターとしてのゾンビいうのは、アフリカあたりからやってきた病気に関係する物だと言うパターンが多い。
吸血鬼のように手続きを経由せず、病気の感染という形でゾンビとなってしまう。
そのために、爆発的な増殖力を持っていて、個体の強さはさほどでもなくてその数が脅威となります。
マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」では貴族の家に手続きを持って侵入してきて家督を乗っ取ろうとするサイコ・サスペンス的な吸血鬼の手下の、ほとんど知性が無い群れがゾンビと呼ばれていました。
つづく