さて、ドラキュラの話もこれでとどめです。
前回はドラキュラ公を倒したメンバ―の解析をしましたが、今回はドラキュラ公の一味の内訳です。
彼のチームのメンバーは、まず女性陣というのが特徴でしょう。この取り合いをして迎撃メンバーと対立をする訳です。
次はロンドン編で公の手足となって細工をする精神病患者。
最後は祖国に攻め上った時に現れるジプシーたち。
はい、前回のヤンキー、ディキシー、学者という構成と較べると非常にわかりやすい対立構造ではないでしょうか。
女性、障碍者、被差別民族という、人権が薄かった人たちがドラキュラ・チームです。
ドラキュラ公に味方をすることで、近代社会では抑圧されていた彼らは活躍を始めるのです。一億層活躍ヴァンパイア社会です。
特に女性というところが面白い。彼女たちは吸血鬼になることで非常にセクシーな存在になります。
これは性的な抑圧と性差別を描いていると考えて間違いないでしょう。
続いて障碍者、被差別民族と来ると、ドラキュラ公が非常にポリティカリティ・コレクトな気がしてきます。
とくると後は同性愛差別さえなければ、と思うのですがそれは公がまだ存命の時の話。
死後、すなわちオスマンの影響を受けて生まれ変わった=ロンドンでは怪物とみなされるようになった状態においては、ここも改められているのではないか、と思われるところも軟禁パートにおいてなくはありません。
公の一味となった女性たちも生まれ変わって人が変わったようになっているようなのですが、この、人間が突然知らなかった面をあらわにする、というのがこの時代のホラーの特徴です。
代表的なのはジキル博士とハイド氏なのでしょうが、これは見知っているように思っていた人間、あるいは自分自身でさえも知らなかった面を持っているのかもしれない、という恐怖がこの時代に潜在的にあったということなのでしょう。
同じころに切り裂きジャック事件なども起きており、それまでの素朴な価値観では分からない価値観の多様化に世の中が戸惑っていたということなのではないかと思われます。
そのような不安定とも言える情勢の中で、世界のイニシアチブを得ようとしていた英国紳士たちにとって、中東およびその向こうのアジアからの人々、マイノリティ、女性、精神障碍者などが予想以上に強い力を持っていたということはさぞや脅威に感じられたのではないでしょうか。
これはまた、今日のトランプ政権下のアメリカの不安そのもののようにも感じられるところですね。