本日は練習中休み日です。
こちらに来てからなるべくフィリピンに関係する本を読みたいと思っていたのですが、そのうち一つが白石隆氏の著書「海の帝国 アジアをどう考えるか」です。
京都大学で教授をされている方の新書です。
これが非常に面白い物でした。
アジア経済の解析をする本なのですが、そのためにまずは歴史をさかのぼって東南アジア史をなぞってみよう、という本です。
なのですが、東南アジアというのがそもそも存在していない概念である、ということが明記されているのが、無学な身としては非常に面白かったです。
以前にここでも東南アジア史を書いた時に、「インドネシア武術において伝統などは本来ない。なぜならインドネシアという概念そのものが20世紀になってから作られたものだからだ」ということを書きました。
ここにおいてはそれがさらに推し進められた形で「東南アジアなんてもの自体がそもそもない」というところに至ります。
これはしかし、専門家の中では決して珍説ではなくて公然のことであるそうです。
第二次大戦中、イギリスが「東南アジア司令部」というものを1942年に作ったのが「東南アジア」という言葉の最初だと言われているようです。
ですが実際にはこれは一国内での一支部の命名上の用語にすぎず、実際にそれが一般に広まるには1949年、あるいは1950年まで待たねばならなかったと書かれています。
なぜかと言うなら、これは中華人民共和国の成立が1949年であるからです。
さらに言うなら、1950年に朝鮮戦争があり、アジアの勢力図が大幅に変化したということが影響しているためだとされています。
そんな最近ですよ。東南アジアとか言い出したの。
では、それまではその地域は如何に言われていたのかと言うと「China and itsvcinities」つまり「中国とその辺り」です。
すなわち、1949年の中華人民共和国の成立と一年後の朝鮮戦争によって、一帯は「中国辺り」と一言では言えなくなってしまったということなのですが、逆に言うとそれまではつまりその辺りはすべて「中国辺り」だったのです。
そう、つまり私がいつも言っている「あのあたり一帯は要するに中華圏なので、インドから仏教と一緒に伝来した少林武術が広まっている地帯なのですよ」ということです。
この「海の帝国」とは、その中華圏という物が東南アジアに変っていった過程を描いている本であり、それを一言で言うと、中華の海賊海域を列強の近代化政策がいかにして塗り替えていったかという歴史を描いた海賊本だったのです。
すなわち、これを読めば我々海賊武術の歴史、そして南少林武術の歴史が見えてくるという次第の大変に面白い本なのであります。
つづく