私がタイで学んできた、ルーシーダットンについてまとめてみたいと思います。
一言で説明しろというなら、仏教ヨガ、と言ったところでしょうか。
ヨガの歴史と言うのは大変に古く、一説にはヒンズー教そのものよりも古いと言うお話さえあるそうです。
確かにインドの神話などを読むと、アガスティア仙などの行者がなんの説明もなく出てきて、神様さえ超えるような超常的なパワーをなんの説明もなく発揮していたりします。
これはなんなの? 人間なの? 神様とはまた違うんだよね? と混乱した読書経験を思い出します。
その、仙、行者というのがヨガによって訓練を積んだ人達だ、ということだそうです。
そのような超人行者たちのことを、リシと言います。
そのリシたちの行によって、世の中を救うための方法を得ようとしていたのがお釈迦様です。
しかし、その行の果てに悟ったのは「こんな苦行とかしても意味ねーよ。悟りと関係ねーよんなもん」と言うことでした。
そこでお釈迦さまはエクストリームなヨガの行を辞めて、ディアーナという静かな瞑想にシフトします。
その結果、見事悟りを開いて仏教を説くことになるのでした。
この、ディアーナというのが禅のルーツだそうです。
アクロバティックなヨガの瞑想を辞めて禅を選んだお釈迦さまは、当時のインド文化圏を説法して廻っていたそうなのですが、道すがらいまでいうパキスタンで出会ったのがお医者のシヴァコ師です。
シヴァコ、シヴァカ、ジーヴァカと呼ばれるこのお医者様は当時のインド文化圏の医療書であるアーユルヴェーダ、ヨーガスートラなどに精通していたそうなのですが、お釈迦様の哲学に共感してその思想にかなった新しいヨガの形を編纂しました。
それがルーシーダットンです。
ルーシーとは上に書いたリシ、行者のことだと聞きます。
このルーシーダットンは、それまでのハードコアなヨガの、体中に針を刺したり火の中に飛び込んだり水の中に長時間潜伏したりという、デッド・オア・アライヴな苦行を離れて体に優しい物を目指して作られました。
この練習法はその後、仏教の文化の一つとして共にインド文化圏に広まり、チベットにもチベットヨガのツァルンとして伝わったようです。
達磨大師が中国の少林寺を開山して禅宗を開いた時にも、ヨガが伝わって少林気功や少林武術の基となったと言いますから、それはこのルーシーダットンのことでしょう。
カンフーマスターで気功をする私がルーシーダットンを学びにタイに向かったのはそのためです。
なぜ他の国ではなくタイなのかというと、インド本国はそもそもがヒンズー教の国であり、また世界最大のイスラム教国であり、仏教は決してメインではないということが一つ。
それからもう一つは、インドおよび周辺のインド文化圏の国では近代に外国からの侵略が行われており、仏教の弾圧が繰り返し行われています。
そのため、文献や壁画などが焚書されたり破壊されたりしていて、失伝した物が多い。
その中で、タイ王国は唯一、建国時から仏教の王国として作られており、過去外国に侵略をされたことがないのです。
歴史上貴重な資料や教えが沢山残っていると言われています。
私がタイで修行することを選んだのはそのような背景のためでした。
結果、一般的に行われているヨガよりもやはり気功に近いことが分かりました。
アメリカのフィットネス・ジャーナリストのポール・ウェイド氏がキャリステニクスと呼んでいる、古代から伝わる体のつくり方の要素がそこにはあったことも確認できました。
アジア中に広まった、カンフーを基にしたマーシャル・アーツ各流派の中に見られる動作にも、ルーシーダットンの姿がいくつも残っていることを発見することもできました。
私たちの活動においては、そういった方向からのアプローチも含めて、人類の身体操作文化の面からルーシーダットンに取り組んでゆきます。