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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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最後の騎士 序 身体文化社会の黄昏

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 これまで、人類の歴史と文明について扱ってきて、それによって文明病に対するために古代から行われてきた「身体性を見直す」と言うことについて書き続けてきました。

 初めはキリスト教とアジア文化における身体観の違いなどを書き、両者が折衝する時代における激変なども綴ってまいりました。

 キリスト教以前の伝統を持つと言うキャリステニクスの歴史と理論、実践を取り上げているのもこのコンセプトによるものです。

 キャリステニクスの他にも、ヨガ、ルーシーダットン、気功、中国武術などはそれらの実態を常に保存してきた地層のように感じられます。

 現代社会は人間の身体感覚の低下が著しく、そのために社会がずいぶん生きづらい物になっているというのが私がこのような取り組みをしている理由です。

 日本においてはその極端な開国と近代化の歴史が明確であるため、そこが特に浮き彫りになるように思います。

 若い層の死亡率第一位が自殺であることや、うつ病を始めとする精神障害、発達障害とその二次障害である人格障害のあまりの多さは目を覆うほどです。

 これらは明治の近代化という引き金から、二度の大戦という大爆発を経て現れるべくして現れた焦土のように思うのですが、この現実は中に居ると非常に実感しづらいものでもあります。

 こんなもんだろうとなまじ適応してしまう。

 そこで世界に目を向けてみれば、やはり北半球において同じことが同時に起きていることが分かります。

 その大きな変化に、みんなが大慌てで対応しようとしていました。

 スタートは産業革命だと言います。

 それにより、職人の技術という物が必要なくなった。

 素人でも十分なレベルの仕事が出来てしまうからです。

 昔は日本でもコピー技師という職業があってコピー機を使っていたそうですが、現在はそのようなことは誰も行っていません。

 それと同じようなことが大量に起きて、膨大な数の失業者が出てしまった。

 この、失業者の増加というのは二度の大戦に共通のきっかけです。

 第一次の時は悪いことに、失業者が増えて消費が下がった上に、物は大量に作れるようになってしまってだぶつくようになってしまった。

 この二つを同時に解消するために列強諸国が力を入れたのが、植民地政策です。

 産業革命によって肥大した「会社」という概念の組織を持ってアジアに乗り出し、画策をして国を乗っ取りそこに労働力を送り込み、市場を開く。

 アメリカが輸出入や関税について非常にナーバスであることを不思議に思ったことがある人はおられませんでしょうか?

 それはこのように、そもそも会社による市場開拓という物が西洋においては侵略行為であったからです。

 有名な東インド会社やオランダ東インド会社のような侵略組織が、邪悪な意図を持った何人もの文字通りカンパニー・マンを現地に送り出し、世界征服のための活動を行いました。

 この、会社員による世界進出の一方で、職人さんたちのように歴史からはじき出されて行った人々が居ます。

 今回はその中の一人のお話をいたします。

 その人達とは、騎士という職業の人々です。

 第一次大戦までは、人類は近代戦という物を行っていませんでした。

 名誉ある騎兵隊が軍楽隊の奏でる音楽の中、美しい騎馬にまたがって勇壮な会戦を行っていたのです。

 定時になると小休止のラッパが鳴り、双方の陣営の騎士たちはともに天幕の下で会食をし、互いの奮戦を讃えました。

 本気で戦争してるのか? って感じでしょう?

 でも、この時代まで、人間が生きるということにはそのような側面があったのです。

 そこから振り返れば、現代社会というのがどれだけ文化と言う物を喪失しているかがご理解いただけるかと思います。

 そして、文化というのは本来身体感覚に基づいているものであり、それを捨てると言うことが身体をおろそかにするということになります。

 上に列挙したような心身の問題の大量発生は、文化をないがしろにしていれば当然起きることです。

 日が昇ったら起きて消耗しない範疇で仕事を片付けて命を育み、日が沈めばセックスをして眠る。本来そのように作られている肉体を無理やりに捻じ曲げて使っているのですから、すべてが歪んでも不思議はありません。

 その当たり前のことを、現代社会の教育では誰も教えてくれない。誰もそのように生きてはいない。

 これから書くのは、そのような身体感性が作り上げてきた騎士のお話です。

 騎士たちの最後の時代を生きた歴史に残る男性のお話となります。

 彼の名はマンフレート・アルブレヒト・フォン・リヒトホーフェン男爵。赤い悪魔、赤い男爵として知られている人物です。

 

                                                                            つづく


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