一般的に「関節の柔軟さは怪我を防ぐ」という考えは浸透していることです。
それが思慮の浅さから「柔らかければ柔らかいほど良い」という発想に至ったのだと思われます。
この説の支持者が引き合いに出すのは、脱力をして転ぶと柔らかくなっているので怪我をしない、というレジェンドです。
はっきり言って、これは間違いです。
この説の支持者が持ち出す例に子供と酔っぱらいのケースがありますが、子供が転んだときに大人より怪我をしづらいのは、単純に自重の軽さと高度の低さが原因の多くを占めているものではないでしょうか。
とはいえ「身体が柔らかいから子供は怪我をしにくい」という説には一つ別のパターンにも見覚えがあります。
十歳くらいのころ、とんぼ返りの真似事をしていて足の小指を痛打したことがあるのですが、絶対に折れていると思った小指は折れていませんでした。
理由は、成長過程の子供の骨は柔らかいので、大人の硬い骨よりも折れづらいということでした。
私の小指は、折れずに曲がっていたのです。
これは「子供の身体は柔らかいので怪我しづらい」の一例かもしれません。
でも、骨は関節ではありませんので、関節の柔らかさとすり替えてはいけません。
あと、曲がるのも怪我かもしれない。痛かったし。
酔っぱらっていると身体が力んでいなくて柔らかいので怪我をしづらいという嘘に関しては、ポール・ウェイド先生が著書の中で否定しています。
なぜなら、週末の病院には大量の転んで怪我した酔っぱらいが運ばれてくるからだ、と彼は行っています。
もし信じないという人が居たら、大量にアルコールをあおってベロベロになってから雨に濡れた非常階段を駆け降りてみればよろしい。
どれだけ関節が柔らかくても、関係なく頭を割ったり骨を折ったりするでしょうから。
結局のところ、関節の柔軟性というのは可動域の範囲が適正であるかどうかというお話です。
関節を脱臼する場合、可動域というよりも元々その関節が曲がるように出来ていない方向に曲がるから外れるのです。
知恵の輪と同じです。外れる方向と外れない方向がある。
なので、柔軟体操において重要なのは、可動域の中での柔軟性となります。
生来持っている可動域が劣化して曲がらなくなっているとしたら、それは問題です。
年をとると関節が石灰化してそのようになることが多いと言いますし、身体を健康にするためのトレーニングで疲労や炎症を招いて結果関節の稼働を阻害するというもの。
ストレッチは、それらを防ぐと言う視点から行うことが良いように思われます。
ウェイド先生曰く「曲芸師の柔軟性は必要ない」。
靭帯や腱を傷めてまで可動域を過剰にすることは、一般の運動家には不必要な物であると思われます。