中国武術と掴みについてのお話の続きです。
強い抓力で掴まれると、そのまま下に押しつぶされてしまうことがあります。
これは、勁力を内側に利かされて重心をとられてしまうからです。
この時、もちろん勁力は大切なのですが、同時に手の皮膚感覚が必要になっているようです。
このような力を一部の日本武道では小手力などと呼ぶようです。
なんだか小手先の力のようですが、決して弱い物ではありません。剣などを使うには手の内が大事という通り、これは非常に重要な物です。
この力の出どころは前腕にあると思われます。決して指単体の力ではないはずです。
勁力を使うと、その場所の肉がぬるぬると拡張します。これを膜騰起と呼んでいますが、これは経絡に勁が通っている状態だという解釈があります。全身をこれで覆うことが我々の武術の要領で、練功法ではその部分を特に重視します。
前腕はこの膜の伸びる感覚が特に強いところであるため、勁力を獲得するためには小手の力を練るのは重要に感じます。
前腕と掌の勁力を使った技法にいわゆる鷹爪や虎爪があります。鷹爪では指先で相手をひっかけて捕まえる力、虎爪では掌で相手にダメージを与える用法があります。
この鷹爪を活用した方法で聞くのが、断脈や截脈と言われる技術です。
私自身はそのようなことは習ったことはありませんが、体の経絡を抑えることで力が出ないようにしてしまったり、時には酸欠を起こさせたりする物だそうです。
そこまでは行かなくても、鷹爪で脈をとられると手を振りほどくことが難しくなります。
そうやって捕獲された状態で打たれると、ダメージが大きいですし、そのまま打とうとしたときに重心に圧を加えられると威力を出すことが難しくなります。
そのような掴んでの戦闘法を、蔡李佛では拿字訣として重んじています。少林では引き手は皮肉を掴みただでは戻らない、などと言われているそうです。
この拿をされた時に、もし掴まれたところが手首であるなら、自分も小手の勁力(抓力)を出すことが有効です。
こうすると、手首の膜が膨らんで張り、内側を捉える相手の勁力に反発することが出来ます。そのために解禽がしやすくなります。
またこの時のための練功法が世の中にはあり、縄でこすったり、掴んでもらってぎゅうぎゅうひねらせたりします。いわゆる雑巾しぼりです。
通常の連消帯打の対打の時も、抓力と解禽の攻防の繰り返しですので、必然的に同様の効果が少しづつ積まれてゆきます。
なので終わった後、しばしば手首が赤く腫れあがります。
こうして太く成長した前腕は中国武術甲では功夫のシンボルとみなされており、上腕ではなく前腕がポパイのような腕をしているのが威力の証とみられています。