前の記事で、房中術についてちょっと書きましたが、そこから派生したお話を一ついたしましょう。
インドの性の聖典、カーマ・スートラの名前を前回出しました。
これは現在ではヒンズー教に備わる物だそうですが、ヒンズーの歴史と言うのがどうも紆余教説ありまして、もとは経典を主体としたヴェーダ教、僧の教えを主としたバラモン教があったのですが、インドに仏教が広まった時にその影響を受けて宗教の哲学化がだいぶ進んだそうなのです。
しかし、そうなってくると一般の信徒には難しすぎて置き去りになってきます。
そこで、元の信仰に戻す形で自然にまとまってきたのがヒンズー教なのだという話を聴いたことがあります。
そのヒンズー教の三つの主神の一柱が、破壊を司るシヴァ神なのですが、このシヴァ神、同時に子宝をもたらす神であるとされています。
インドのあちこちにはご神体であるシヴァリンガという物があるそうなのですが、これはシヴァ神の男性器を象った物です。
昨年タイで修行していた時にも、修行場の庭に祀られていました。
そのくらいに一般的な物です。別に一部の奇祭でだけ見られるような物ではありません。
大ヒットした映画「バーフバリ」でも滝をさかのぼる若き主人公が、その大力を知らしめるエピソードで動かすのがシヴァリンガです。
ちなみにその後、この青年は滝を遡って嫁とりの冒険に出ます。
つまり、これは巨大な性エネルギーを持ってそれを上昇させ、陰陽和合を果たして不毛の国土に豊穣をもたらすということが表現されている訳です。
ヒンズーの教えにおいては、性愛、聖法、実利の三つが尊ばれているようで、この性というものがどれだけ重要視されているかが良くわかります。
さて、そのシヴァ神なのですが、日本でも七福神の一人として伝わって、大黒天と呼ばれています。
そしてこの大黒天、例の後戸の神信仰で祀られている神の正体だともみなされるのです。
日本にも房中術の行が伝わっていたことの一つの形跡です。
上のバーフバリの、生殖器から始まって滝を遡ってゆくと言う構図ですが、これはヨーガの行における性的エネルギーの上昇を土台とした物だと思われます。
会陰部、生殖器部にある性エネルギーが、背骨を上昇して頭頂に至ってゆき、悟り(真実)に達するということなのですが、この途中で体感にある五つのチャクラを経由することになります。
これによって会陰部、頭頂を含めた七つのチャクラが活性化されるというのです。
この行は我々の派においては法輪気功として伝わっています。
法輪というのがチャクラの漢語訳です。
あるいは車輪。
この気功を果たすために、周天気功を一度経る必要があります。
大周天、小周天の内、小周天の方をしていないと、上がったエネルギーが上から下に降りずに精神異常をきたすと言われているからです。
これをヨーガではクンダリニー(性エネルギー)症候群と呼ぶそうです。
バーフバリの図式で言うなら、本来上から下に落ちるはずのエネルギーの象徴である滝を逆流して昇っているため、無理が掛かっているのです。
この性エネルギーの上昇をする気功を我々は黄河大逆流と通称するそうですが、まさに流れに逆らっている。
そのため、上まで達したら今度は上から下に流れが戻らないといけない。
それをするのが、身体を循環する周天気功です。
この流れに乗せて性エネルギーを全身に循環させると考えています。
シヴァ神による破壊と豊穣のモチーフは、洪水とそれによる種子と水の広がりであるそうです。
この発想が、体内における逆流と種子の広がりを意味しているのかもしれません。