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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ザ・スタンド

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 先の週末は、スティーブン・キング原作小説のドラマ化作品「ザ・スタンド」のDVDを観ていました。

 これは昔NHKで放送されたTVムービーで、その壮大な世界観が大変に印象に残りました。

 反面、キリスト教的な終末と救済を描いた話であるために、ちょっと価値観としてわからない部分もたくさんありました。

 このドラマが制作されたのは98年で、原作小説は79年発表だというから、だいぶ息の長い作品です。

 日本で原作が翻訳されたのはさらに後でした。

 その原作も読んでみたのですが、これもまた、非常にキリスト教的な作品で、よりわからないところが多かった。

 結果、さらに興味を持ちました。

 今回、これのDVDを観たのは、とにかく長いからということです。六時間くらいあるので時間がつぶせる。

 しかし、見始めてからこれはちょっと、いま見返すには刺激が強すぎるかもしれないと若干の後悔を感じました。

 というのも、冒頭で描かれるのは、新型のインフルエンザによる世界の危機だからです。

 欧米ではもうずっと前から識者がこのことを予測していましたが、この作品もそれらを受けたものでした。

 これはおそらく、キリスト教圏における黙示録の影響なのでしょうね。

 作中、生き残った人々は夢を見ます。

 夢の中に、黒人の老婆が現れて呼んでいる。

 彼女はアビゲイルと言って、トウモロコシ畑の中の小屋に住んでいます。

 古き良きアメリカの原風景のようなところです。

 私は昔、アメリカに行ったときにマーベルのトレーディングカードをいくつも買ったのですが、その中に彼女の札もありました。

 どこかでスピンオフしていたのでしょうか。

 夢の中で彼女に呼びかけられた人々は、そのトウモロコシ畑の家を目指します。

 そしてそこに集まって、キリスト教的、民主主義的なコミュニティを作って生活を再興させてゆきます。

 一方、別の人を夢に見た人たちもいます。

 それは顔のない男と呼ばれる物で、ヒューイ・ルイスのような風貌をしています。

 ロック・スターの姿をした悪魔で、彼に呼ばれた人々はラスヴェガスに集まり、そこで同じく文明を再興してゆく。

 こちらは彼を王として抱いた独裁的な国となり、享楽的な社会をまた作ってゆきます。

 この二元論の中で、それぞれの国は最後に対立に至り、ラスヴェガスは掘り出した核兵器によって滅びます。

 これは約束された神の御業だとされているのですが、どうして二段階を経たのかが不思議に感じます。

 一度目の危機を生き延びた人が、そこから学び、やりなおすか、それとも同じ過ちを繰り返すかの猶予を与えたのでしょうか。

 ラスヴェガスで滅びた人の中にも、善良そうな人もいたり「これがアメリカ人のすることか!」と王に抗議を唱えたりする人もいたので、その厳しさが余計に課題として残ります。

 ただ今回、少しわかったのは、結局は破滅した人々は破滅するべくして破滅する要素を常に持っていたということです。

 というのも、彼らの滅びはどこかで自滅となっているのです。

 犯罪者や社会の落ちこぼれを集めて幹部にしているのですが、やはりその気性ゆえに、常に自分の欲望や弱さを補いきれずに滅びてゆきます。

 特に対照的に映されるのが、双方の障碍者です。

 アビゲイルのところには、トムという大男の知的障碍者がいます。

 ラスヴェガスには、人格障害の放火魔が居ます。

 どちらも知性に難はあるのですが、トムは善良で、放火魔は火をつけたり爆破をするのが趣味だという性癖を抑えることが出来ない。

 放火魔はその破壊衝動のために悪魔に気に入られて爆破部隊の体調という適職を得られるのですが、結局は自分の内なる声、不安が沸き上がったり過去のフラストレーションがフラッシュバックすると、手近なところで物を爆破してしまいます。

 結局、与えられた軍事施設を自ら爆破して「ごめんよー。止められねーんだー」と言いながら一人砂漠に逃げてゆきます。

 なんの意味もない。

 結局は、自分自身の弱さのためにすべてを台無しにしてしまう。

 この、自分と向き合っていない、自分を善くあろうとすることが出来ないという自浄能力の無さによって、彼は滅びてゆくのです。

 彼はもう一度、魔王に取り入るために核兵器を掘り出してそれを手土産にラスヴェガスに戻り、そこで暴発させてすべては終わりです。

 この魔王も、せっかく組織的に物事を成し遂げて権力を確立しようとしているのに、ところどころで癇癪を起してすぐに人を殺してしまったりそのために反感を買って人心を失ったりと、超能力があるのに結局は台無しにしています。

 自浄能力が無い。

 どれだけ個として優位な能力があっても、自らを省みて善く保とうという志向が無ければ、結局は自ら滅ぶことになる。

 我々は、ここに学ぶべきだったのかもしれない。

 初めから精神的な支柱を与えられることなく、また自ら持とうとするきっかけにも出くわさなかった現代日本人の多くが、ラスヴェガスの人々と同じ状態なのではないでしょうか。 

 自浄能力の無さゆえに、自らすべてを破滅させる。

 そのようなことにはなりたくないものですね。

 私はアビゲイルのような選ばれた者ではありませんが、こんなことを今日も又、世界のどこかに届けと発信しています。


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