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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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マニフェスト・ディスティニーとSBR 3

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 SBRにおけるジョニィ・ジョースターのことを書く上で、どうしても書いておきたい人物がいます。

 毎回クリアするべき障害物のようにして出てくる敵役の一人なのですが、名前をマンダムと言います。

 実に奇妙な名前ですが、外見はブロンソンには似ていません。 

 どちらかと言うとゲイっぽい感じの中年男性で、おしゃれな髭を生やしています。

 人里を離れて森の中に住んでいる隠者的存在で、彼の特殊能力は六秒時間を戻せると言うことです。

 この、時間を操ると言うのはシリーズ全般を通してラスボスだけば毎回持っている、荒木先生の「ぼくが考えた最強の能力」なのですが、彼は他の時間系能力者と違って不意打ちや闇討ちで相手を倒したりはしません。

 これを自分の住んでいる地域に入り込んできた相手を逃げられなくするために使っていて、戦闘自体は正面からの対決によって行います。

 というか、それそのものが彼の目的なのです。

 それは彼の少年時代の経験に由来する信念です。

 もともと病弱な少年だった彼は、ある日、南北戦争の逃亡兵に家に押し入られて家族を惨殺されます。

 犯行者と対面することになり、彼は偶然に後押しされながらも、一対一の対決に挑んで勝利します。

 以後、彼は持病が克服されると言う不思議な体験をします。

 それ以来、一対一の正面からの決闘こそが生命を向上させるという信念を抱いており、卑劣な行動の無い、神聖な決闘をするために生きている行者となっています。

 そのため、いくらでもだまし討ちが出来そうな時間を戻すと言う強力な能力の秘密も自ら明かし、礼儀正しく自己紹介をして決闘を「よろしくお願いいたします」と申し入れてきます。

 様々な狂人を描いてきたシリーズの中でも、トップクラスのドサイコ野郎だと話題になりました。

 しかし、彼がシリーズにおいて特別枠である時間を操るという能力を持っていたことが示すように、非常に重要な存在となっていてただのいつもの通りすがりのサイコ野郎とは違います。

 というのも、彼が説いた「卑劣さのない漆黒の信念をもって戦いに挑むことで人間的成長が訪れる」というのは作品のテーマになるからです。

 これを彼は「男の世界」のルールだと言っており、これは時に社会のルールとは反するが、本質的に自然界において正しい考えだと信じて疑いません。

 そして、主人公たちは彼を正面からの決闘で打倒した時に、この思想を継承するのです。

 マンダムは利益だけを求める卑劣な人間性の相手はスルーし、戦うべき価値があると認めた相手と対決し、勝っても負けても満足して相手に感謝してきちんと礼を言います。

 主人公たちに敗北したマンダムは「ようこそ。男の世界へ」とこの価値観を継承した彼らを祝福し、彼を乗り越えて以後、ジョニィの目には漆黒の信念が宿ります。

 そのようにして、主人公の精神の在り方に影響を与えたメンター、ジャイロと並ぶもう一人の師ともいえるのがこのマンダムです。

 彼との命がけの「修行」を経てある種の生まれ変わりを経たジョニィは、前回書いたような物語の最後を迎えることになります。

 社会における価値とは、当然勝利であり、獲得です。

 しかし、マンダムの言う「男の世界」での価値は、正々堂々の戦いにおける精神の成長です。

 だからこそ、敗北したジョニィは全てを受け入れながらほほ笑むという成長した男になれたのです。

 物語の初めで彼は「この物語はぼくが歩き出す物語だ」とモノローグをしていますが、成長した彼は歩き出します。

 レースが行われた1890年以降、アメリカはマニフェスト・ディスティニーの約束に導かれて西へと帝国を進軍させてゆきます。

 アジア、中東を制してローマにと至った時にその旅は完成します。

 ナプキンを獲得した国が神に約束された役割が達成される訳です。

 しかし、物語の最後でジョニィはそのまま東に向かいます。

 行く先はジャイロを埋葬するためにイタリアです。

 社会が新しい物、たくさんの利益、勝利の獲得を求めて西に向かうと反対のルートで、イタリアに直行するのです。

 物語の最初で、遺伝子的に与えられた才能とそれによる傲慢から半身不随になっていた青年が、自らの努力と学習だけで学んだ人生観だけを手に、それを与えてくれた師の亡骸という「責任」をかついで自らの足で歩くわけです。

 この、物質的には何の利益も勝利も無い道行こそが、彼の生きた証であり、輝かしい人生の道行そのものとなっています。

 その時の彼は、「ありがとう。本当にありがとう。それしか言葉が見つからない」と感謝することを学び、充たされています。

 プロテストするのではなく、自らの生を受け止めて満たされて、喜びに満ちて自分で歩くという大変東洋的とも言える状態に至っています。

 古い世界、自然主義のあるべき命の形に自ら還って行ったのですね。

 この物語の後、百年以上が経過している設定の第八部では、ジョニィの旅がその後、日本で終わったことが書かれています。

 アメリカが帝国主義にのっとって西側の日本に侵攻したのと、真逆のルートとなりますね。


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