いくつもある岳飛開祖説の拳法の内、鷹爪翻拳というのは実に面白い存在です。
これ、前回書いた倭寇の話に照らし合わせると、対倭寇の将軍、戚継光公がその対策マニュアルである紀効新書の中でこう書いています。
「世の中にはいろんな拳法があるけどまぁ大同小異で、その中より良い物を選んで戚家拳三十二勢を作った。元ネタにした善い物は以下である」ものすごい大要の意訳ですが。
その後、多々の棍法と拳術を挙げているのですが、そこに「八閃番」と「鷹爪王の拿」が上がっています。
八閃番とは一般に言う八閃翻、つまり翻子拳類だと言われています。
そして、鷹爪王の拿。
拿とは掴むと言う意味で、私たち蔡李佛の十字訣にも含まれていますが、これのことを「鷹爪王の」と言っているところが面白い。
これは当時すでに高名だったこういう武術家がいたということでしょう。
鷹爪翻子拳の二つの要素がここで並んでいるのが面白い。
おそらくは、私が教えてもらっている物も含めてこれにシンイーを加えるとおおよそ岳飛開祖拳法の中国におけるイメージとなるのではないでしょうか。
そして、私がやっている物は翻子拳類でありながら二路目で明らかに形意拳になるとは書きましたが、その際の手形が昔のロボットの手のようなC状のものとなります。
これで相手の筋や腱を掴むようです。拿です。やってもらいました。
というと、用途としては鷹爪と同じ概念なのではないでしょうか。
で、ですね。
形意拳と鷹爪と言うと、これはシンイーを形成する六つの要素の一つです。
鷹爪、龍腰、虎包頭、熊膀、鶏腿、雷声。これが六つです。
鷹爪拳の鷹爪というと何となく相手を拿で痛めつけるという感じがありますが、シンイーでの鷹爪は勁の通し方であり、把力、指功を高める物です。
ここでちょっとキャリステニクスの話になりますが、私は筋トレではなく完全に古典的な練功としてキャリステニクスに取り組んでいますので、鉄棒トレーニングも東洋的な力によって行います。
現在、ホリゾンタル・プルという懸垂を苦手だった逆手持ちで行う補助メニューを取り入れているのですが、これ、理由は上腕二頭筋にもっとも効く練習だからだ、とポール・ウェイド先生が繰り返しているからです。
しかし、教えの通りに20を3セットやってるうちに、指の功が強くなってきています。
表現としていうなら、上腕の力ではなくて指がバーに吸い付く力で身体を引き上げています。掌の浸透力です。
いまの時期、午前遅めになるともう鉄棒が熱くてたまりません。
そのような時、バーにタオルをかけて懸垂を行うのですが、これ、当然ギュッと握りしめるには適さない。
ぶかぶかして滑ってグリップが出来ません。
でも構わないのです。握らずに、指をC状にしてひっかけてるだけで自重の上下が可能になります。
これが中国武術的な鷹爪功です。
私は平素、いくつもの練功法の内、鷹爪功で多くのことが出来ると書いてきましたが、このくらいまでは可能です。
もちろん、そのような手から手、胸や肩甲骨を含めた部分までではまったく完成されてはいません。
頭部から足の裏まで、その中心となる丹田を全て使えて小周天としての武術です。
さらにそこから外に拡大して大周天の武術となったときに、武術であることも辞めて更なる次元に向かうと示されています。
岳家拳におけるシンイー、鷹爪、翻子の要素、全て一つとなって実に面白い。