老師はいま、一般には岳家拳を中心に教授をしています。
私はお願いして五祖拳を教わっています。
基本の練功には猴拳類の物が重視されています。
老師は元々福建の出身で、五祖拳とボクシングをやっていたと聞きました。
その後、格技の研究としてボクシングと親和性の高い猴拳に向かわれたそうです。
中国武術の世界では実戦と言えば猴拳と言われているくらいに、とにかく喧嘩で強い武術の代表なのですが、とくに遠い間合いで素早い攻防に強いのでボクシングには応用が良かったようです。
その後、瞑想や気功に進まれたときに岳家拳や太極拳を学ばれたそうです。
このように様々な武術を体得された老師が言われるには、形を覚えるのは意味がないとのこと。
私がいつも言っている、外形ではない、ということですね。
そうではなくて、それぞれの武術の持っている力を身に付けることが大切だと言います。
ですので、同じようにボクシングやムエタイをやっても、猴拳類の経験をしていてその功があると、ものすごく動きが速くなる。
老師が見せてくれたコンビネーションは、とても目では追えない速さです。
その速さと打人の力があれば、形はボクシングのパンチでもムエタイの肘でも同じ。
人を倒すのは速度と威力ですね。
五祖拳をやれば大きな威力が出て、相手はそれを受け止めたりすることが出来ないと言います。
でも、五祖拳の勁と猴拳の勁では、最高速度で言うなら猴拳が速い。
速いけど、パリで流されることもあります。
ガードの上からそのままぶっ倒すという物とは種類が違うようです。
猴拳の勁を鞭勁といい、五祖拳や岳家拳の勁は整勁なのだ、と言います。
一件、猴拳類に似ていると言われる蔡李佛ですが、実は鞭勁ではなくて整勁です。
鞭ではなくて鉄線勁の鉄パイプなのです。
大師も良く、香港でも盛んだった大聖劈卦拳という門派の動きを見ては「うちはあぁいう風にはやっちゃだめだ」と言っていたと言います。
この、中身の種類をよく理解して体得し、自分で使い分けることが大切なのだと老師は言われます。
功のある身体、功のある人間になることが大切ですね。
そんな老師と練習をしていた時「こう」と言って私の手を掌で打たれました。
すると、掌の五指の骨がまるでチタンで出来ているかのような浸透がありました。
老師の目を見ると「わかった?」というようにこちらを見ています。
私は黙ってうなずきます。
これ、私の鉄線勁でも同じようになるので、おそらくは教えてくれたのだと思いました。
のちに知ったのですが、老師は五祖拳で鉄砂掌をされていたとのこと。
そうかー。
やはり南方海賊武術の整勁はそちらと相性が良いのだなー、と思っていたら、猴拳類の鉄砂掌も後年やられたのだと聴きました。
あー。鞭勁にそれを合わせるのも強力だよなーと思い出したのは、昔見た北の猴拳の人達がレンガ張りの足元をものすごい加速でバンバン掌で打つ風景です。
思い切り勢いをつけて掌でぶっ叩くので、そのような排打功は必須なのだと聴きました。
鉄砂掌は誤解されがちですが、内功の要素もあって決してただ手を堅くするばかりではありません。
この、身体をその功が存分に使えるようにするという概念がやはり、中国武術の根本の設計思想であると思われます。