さて、前回に引き続き今回も「ラーヤと龍の王国」のネタバレ考察を書いてゆきます。
前回は、あれは東南アジアの現実の歴史を描いているという耳障りの良くない本気度に震えたと言うことを書きました。
それがどういうことか、今回はそこから書いてゆきましょう。
現在、ニュースではミャンマーの問題を目にすることが多々ありますね。
国軍側が民主化指導者のスーチー女史を監禁して反民主化体制を強行していることが問題になっています。
民主運動を働きかけるデモ隊が日々武力攻撃に遭い、先日は七歳という最年少の被害者がでました。
どのような経緯でこのようなことが起きたのでしょうか?
根を掘ってゆけば、それは列強時代のアジア侵略に至ります。
元々、現在東南アジアと言われている地域は殆どが中華圏に相当していて、各地の王族や軍閥が中国に朝貢をしながらそれぞれの勢力圏を持っていました。
当時の勢力圏というのは、あいまいに〇〇王の縄張りはだいたいこの辺りまで、という物で、国境という物はありません。
勢力圏同士が隣接しておらず、基本的には誰のものでもない自然世界に、人間の勢力地が点在していたのですね。
これを西洋人たちは「マンダラ型国家」と呼んでいます。
そう、西洋人たちです。
資本主義が成立し、バブルに浮かれて植民地政策に熱心だった西洋諸国が攻め込んで来た時にそう名付けたのです。
いきなり最新兵器と武力で侵略するようなことはしません。
選択した勢力圏に取り入り、兵器や技術を売って、勢力の拡大をさせるのです。
そうして近隣の国を侵食し、育ったところで自国の領土とする。
そうやって東南アジアの国境と言うものは西洋人たちが作っていきました。
ミャンマーにおいてはそのことに気が付いて巣くっていたイギリスを追い出して、独立が行われました。
しかし、今度は独立後のミャンマーを誰が差配するのかが問われます。
勢力拡大によってさまざまな民族が、新しい名前の元にまとめられていますが、それぞれに自分たちが次の権力者になろうとします。
結果、現在の国軍が権力を握り、かつては無かったはずの国境で区切られた地帯を「ミャンマー」と主張しました。
私たちは中学生くらいのころにこのことを教師たちから教えられました。
それまでは「ビルマ」と呼ばれていた国が、ミャンマーと言う国に変わったのです。
このことは日本も無関係ではありません。
スーチー女史の父親のスーチー将軍も、そもそもの国軍も元は西洋との闘争のために日本が育成した軍から生まれた物です。
この国軍勢力という軍閥に反対をする勢力の人達、民主化運動の人たちは、そのためにいまでもミャンマーではなくビルマと呼ぶことがあるそうです。
民主主義勢力の人たちのデモでは、三本指を立てたポーズを取ることがシンボルとされています。
これが民主化の主張であり、SNSでこれを発信した人は反逆罪で逮捕されています。
もちろん、ミャンマーの人達も無害な被害者ではありません。
近年のロヒンギャ問題などに見られるように、そもそもが民族対立の盛んな地でした。
また、定期的にタイに攻め込んでくる国でもありました。
現在、国連がミャンマーに関与しようとしていますが、国軍側、民主側、ともにそのことを拒んでいます。
それは、人権問題から国連に介入されると、どちらの側も人権侵害を侵していたためです。
それがいま、民主化と言う軸をめぐって民族間の対立を越えようとしているのだそうです。
民主化デモ参加者のプラカードの中には「いままでロヒンギャの人達がどんな気持ちでいたのか分かった」と書かれた物もあったのだと言います。
件の三本指のポーズは、隣国、タイ王国の民主化運動から流入してきました。
私が修行していたタイ王国です。
タイも元々王政でしたが、軍によるクーデターが起きて現在は軍事政権となっています。
それに反対する人々が民主化運動をしており、民主化社会の象徴であるサブカルチャー、アニメやゲームのキャラクターやティーン・ムービーのキャッチフレーズなどを前面に押し出してデモを始めたのです。
ラーヤと龍の王国の土台となっているのは、このような民族間、および権力と市民との分断なのです。
そして物語自体も、まさにその人々の間の分断、猜疑心をモチーフにしたものとなっていました。
つづく