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少林寺への道たち 2

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 前回は中国の歴史や仏教、仙道での民話から続く功夫映画の文脈について書いてきて、その中の中核的事件である「少林寺焼き討ち」事件を描いた映画にまで話を持ってきました。

 ここでちょっと注意が必要です。

 というのも、この「少林寺焼き討ち」故事というのは功夫映画神話世界の中であまりに大きな出来事であるため、あって当たり前のこととして処理されているから、実際には直接描かれることが少ないのです。

 大抵の功夫映画では、すでに逃げ延びた人達が抵抗をしているところから話が始まっていたり、焼き討ちがいずれ起きることが分かっているけど描かれないそれ以前のお話としてスルーされています。

 第二次大戦前後を描いた日本映画やNHKドラマで、何が起きたのかみんな分かってて見ているというのと同じです。

 いちいち戦争の様子を描く必要は必ずしもありません。

 その中で、実際に少林寺が焼けるという事件を描かれている物を「少林寺焼き討ち物」というサブジャンルで呼ぶのだそうですが、その代表作の一つがその名もずばり「少林寺炎上」。

 この映画、厳密には「少林寺への道」とタイトルされてはいません。

 しかし、同じ監督、同じキャスト、同じ世界観で作られているので、実際にはシリーズ、ないし直系のシェア・ワールドとして見ることが可能なのです。

 そのため、今回はこれを一連の流れとしてお話を進めます。

 第一作、「少林寺への道」では、武術の強い清朝の将軍を親の敵とする少年が、少林寺で修行して仲間と共に仇を討つ、という比較的ミニマムでまっとうな話となっているのですが、二作目で突然突拍子もないことが起きます。

 何と二作目「十八銅人の逆襲」の主人公は清朝の皇帝、のちに少林寺を焼き討ちにする、神話世界での最大の悪役である雍正帝です。

 若き日の雍正帝が水戸黄門よろしく市井をうろついては小悪党のごろつきなんかを傷めつけて憂さ晴らしをしていたところ、本当に強い少林寺上がりの青年と遭遇して腕試しを挑むも敗北、自分も身分を隠して少林寺に入って鍛えなおす、という話なのですが、結果的にこれがいつまで経っても卒業課題の十八銅人の試練をクリアできずに落第、恨みを飲んで下山して終わると言うなんだそりゃなお話です。

 十八銅人ってなんだ、と思う人も多いでしょうが、正直私にもわかりません。 

 ロボットなのかそれとも儀式として金粉を塗った試験官なのかは分からないのですが、金色の人間が少林寺の最終試練には出てきてそいつらが待ち構えている洞窟をクリアしないと卒業できないのです。

 木人拳の木人と同じ物なのですが、より古い資料だと戦前当たりの日本でも少林寺の卒業試練には木人が居るとあるので、おそらくは銅人というのはそれを映画用に演出したものなのではないでしょうか。

 この銅人の群れに何度も敗れて落第拳士としての烙印を持った雍正帝が、のちに悪の帝国の勢力を率いて少林寺を焼き討ちにするのですが、これ、遡って悪役を主人公にしたエピソード1の物語となってることも含めてスター・ウォーズの元ネタなんじゃないかと思うんですよね。

 つづく少林寺への道3なのですが、残念ながらこの作品、現在はとても手に入りにくくなっており私は未見です。

 四作目、これが今回の件のきっかけとなった「少林闘喇嘛」なのですが、ここでは少林寺がかつて喇嘛の国を滅ぼしたというこの世界ではご存じものの出来事を背景に、少林寺に罪を犯した者として囚われている狂った拳士や、相変わらず隙あれば少林寺をつぶそうとちょっかいを出してくる清朝を絡めた複雑な物語が語られます。

 この、狂った拳士なのですが、仏教でいう魔境や偏差に偏った者として功夫映画ではよく出てくる存在です。

 少林武術は禅の一形態なので、間違った瞑想をしてしまうといわゆる禅病、精神の病に至ってしまう。

 そう、スター・ウォーズで言うダーク・サイドがあるのです。

 そして、この世界ではダーク・サイドに堕ちた強者は眉が白いと決まっています。 

 これは白眉(パイメイ)道人という定番のキャラクターがネタ元になっているようなのですが、これは五祖と同じく少林の拳士だったと言うのに、自らの拳を高めることだけに狂って少林を裏切り、帝国軍に寝返って焼き討ちの手引きをしたということになっている人物です。

 この白眉、功夫映画の世界では人気悪役なのですが、この流れを組むタランティーノ監督の作品「キル・ビル2」ではヒロインのザ・ブライドに功夫を教えた師匠として登場しています。

 そう。

 繋がっているのですよ。

 余談ですが、この白眉道人の編み出したという白眉拳、私の師父の得意武術です。

                                                                       つづく


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