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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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黄飛鴻と弟子たち 1

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 COVID下のいまの生活、私は伝統武芸の師父として生きているので、平素にもまして勉強をするために暮らすことにしています。

 おかげで人生がより良くなって行っています。

 最近は、ふと思い立って我々南派中国武術のもっとも著名な拳師、黄飛鴻師父について調べていました。

 調べると言っても、実際の黄飛鴻師父に関しては、ほとんどのことが知られていません。

 知られているのは、ギネスブックに載った「最も沢山映画化された実在の人物」としてであり、そのようにして伝えられたお話の根っこは、弟子過ぎにある朱愚斎という作家の手による物語です。

 ですので、今回調べたのももちろん、フォークロアの登場人物としての黄飛鴻師父ということになります。

 実際の黄師父に関しては、黒旗軍という軍の指揮官であった劉永福の命を救い、請われて彼の軍の調練をしたということが史実として遺っているほかは殆どのことが分かっていません。

 この頃の黒旗軍とは、当時中華圏への侵略の一歩として越南(ベトナム)に侵攻していたフランス軍を追い払うために出征していた軍閥の一つでした。

 この活躍が黄飛鴻師父を中華の英雄として有名にしたようです。

 しかし、フォークロアとしてカンフー映画では、このマジメなエピソードそのものが主体となることはありません。

 あくまで功夫の名手で正しい心を持った理想的中華男児としての姿が描かれることになります。

 今回、その架空の人物像としての黄飛鴻師父の物語群を追うことで、それらの寓話の中に典型的な功夫的価値観と言う物を観ることが出来るだろうということが、研究の意図となっています。

 改めて物語における黄飛鴻師父についてご紹介いたしましょう。

 彼は広東十虎と呼ばれた武術家の一人である黄麒英の息子で、幼い頃から武術を仕込まれた麒麟児であり、特技は影さえ見えないと謳われた無影脚と、虎爪、それから得意兵器として傘を用いるというケースも多いようです。

 また、ジャッキー・チェンの演じた映画では酔拳を使うということになっているのですが、これは黄麒英の弟弟子に酔拳の名手だと言われた蘇花子(酔拳に出てくる赤鼻の師匠です)が居たためで、実際にこの拳を用いたかは不明です。

 時代的には、黄麒英師父や蘇花子が活躍した明末から辛亥革命、民国初期に渡ってが黄飛鴻映画の舞台となるのですが、それらの時間が経過した中でも、常に師父は30から40くらいの、堅物でマジメ、封建的で実直な古いタイプの「師匠」として描かれます。

 これらの時代の変遷の中で、常に石頭の硬骨漢として、世相に惑わされる人々に喝をくれて行くというのが典型的な描かれ方です。

 そういう意味で、ジャッキーの演じた若い日の姿は例外的な物だと言えますでしょう。

 どちらかと言うと、あの映画では父親の黄麒英の方が、一般的な黄飛鴻のイメージと近い。

 おっちょこちょいで怒られてばかりのジャッキーの姿は、黄飛鴻の弟子たちの姿に近い物があります。

 この弟子たちと言うのが私が思う、黄飛鴻物がスタンダードになった理由なのではないか、と思うところであります。

 というのも、彼らは落語の登場人物のようで、恐らく非常に民情に寄り添った存在だったのではないかと思われるからです。

 その弟子たちの筆頭、大弟子となるのが猪肉栄こと林世栄です。

 実は現存している黄飛鴻の拳法、洪拳はすべてこの林世栄が継承した物で、林祖と呼ばれて尊敬されている存在です。

 また、私の継承している蔡李佛も出来たらしく、両者を融合させて虎鶴双形拳という套路を作ったと言われています。

 そのように非常に実力のある武術家なのですが、先代二代があまりにも伝説的な偉人であったためか、彼の存在はカリカチュアされています。

 猪肉の名の通り、肉屋さんを生業としていたことから多くの劇中ではデブキャラだということにされており、実力はあるが食いしん坊で意地汚いという描かれ方をします。

 サモ・ハンのデビュー作「マレフィセント・ブッチャー(少林寺、怒りの鉄拳)」は、この猪肉栄が主人公です。

 そのくらいにキャラクターとしては立った存在なのですが、彼は大弟子で上の立場にあるために、黄飛鴻師父そのものを主体とした作品では、怠け者の先輩であったり、のれん分けしてすでに遠くに居たりしてあまり活躍の機会が多くないというところもあります。

 猪肉栄が留守の間、兄貴風を吹かすのが、梁寛ことフ―です。

 少し長くなったのでフーについては次回に回しましょう。

 

                                                                        つづく


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