今回は、多くの黄飛鴻物で弟子たちの兄貴分として描かれるフーこと梁寛について書きましょう。
前回、大弟子の猪肉栄を演じたのはサモ・ハンだと書きましたが、フーを演じた有名俳優と言えばユン・ピョウです。
その通りに、フーとは軽快で若者らしいキャラクターとして描かれることが多い。
ですので粗忽な若者の典型として出番が多いのですが、彼には非常にちょっと、どぎついというか、行き過ぎたところがあります。
こずるさやだらしのなさから、シャレにならない暴力事件を起こしてしまったり、とんでもない損害を出してしまうことがある。
粗忽と言えばだいぶ寛容な言い方になるのですが、用は彼には倫理観と言う物が欠けているのです。
ですので、目先の損得に流されるし、下らないプライドで動くし、すぐに他人に意地悪やいたずらをする。
言い方を変えれば問題児です。
この見方は、現代日本人の私の目からの評価ではなくて、作中でもそのように描かれています。
女性たちに対してえばり散らかして総スカンをくうというような、嫌われ者の要素が幾分あるのです。
テレビ・シリーズの中では、敵方の道士の妖術にかかって操られてしまい、後ろから黄飛鴻を襲ったりします。
その時、黄飛鴻は弟子を傷つけたくなくて手加減をし、術を掛けた道士の方を追いかけるのですが、その隙に乗じてフーは師父に怪我を負わせます。
その後、術が解けて目を覚ましたフーは、師父に謝ったりその身を案じたりするのではなく、自分は師父に勝ったと天狗に乗って広東一の武術家は自分だと鼻にかけ出すような有様の小人なのです。
別のエピソードでも、フーと言えば裏切り者の役割が回ってくることがあり、いまひとつシャレになりきらない信頼できない人物だという影が彼には張り付いています。
これは恐らく、実際の黄飛鴻の弟子だったのは猪肉栄一人だったと言うことが関係しているのではないかと思われます。
物語で弟子として描かれる他の者たちは、正式な弟子ではなくて黄飛鴻が調練をしていた自警団に在籍していた近所の若者だったようなのです。
自警団の若い衆と言えば、まぁそこらの気の荒いあんちゃんであったりもするでしょう。
一説によると実在のフーは行いが悪く、最終的には黄飛鴻師父に殺されてしまったという話さえあります。
この、フーのダークサイドの側面が独立して描かれているのが七兄(チャコ)と呼ばれる鬼脚の七です。
鬼脚の七もチャコも両方あだ名というキャラクターなのですが、これは実は元々フーのあだ名だったと言うのですね。
鬼脚と呼ばれるほどに蹴り技が得意だった。
鬼と言えば中国では幽霊のことですから、師匠の無影脚の教えをだいぶ引き継いでいたのでしょう。
お調子者のフーとは違ってダーク面の強いキャラクターとして分裂させられて生まれた鬼脚七と言うキャラクターは私も大好きなキャラで、独立して映画が作られているような人気者です。主演映画の時にはユン・ピョウが演じていることからも、彼がフーであったことが中国では知られているのであろうとさっされます。
「ワンス・アポンア・タイム・イン・チャイナ」シリーズでは、チャコを演じている俳優さんは主演のリー・リンチェのアクションシーンのスタントをしたり、悪者の大ボスのボディ・ダブルもするという、いわば最も動ける俳優さんです。
このシリーズでのチャコは、幼少時に熱病にかかって頭髪が全部抜け落ち、顔には赤斑が遺っており、脊椎はねじ曲がり、痙攣の発作を抱えているという異形のキャラクターとなっています。
初めは黄飛鴻師父への刺客として悪の資本家に雇われた武術家として登場します。
脊椎の湾曲を活かして四つん這いになり、その状態で地を這い、柱を登り、天井にぶら下がって高速移動をしながら襲い掛かってくると言う、ニンジャやエイリアンのような襲撃法を用いてくるのですが、怪我をして雇い主に見捨てられ、路頭に迷ったところを黄飛鴻師父に巣くわれると、彼の名を叫びながら鳴き声を上げて改心するという実に純情な気性を持った好漢であったりします。
この辺り、見た目は男前なのですが中身のないフーと真反対に描かれます。
その後も、弟子たちの間で最も腕の立つ男、信義に厚く、頼りになって一本気という、森の石松や大菩薩峠の米八のようなキャラクターとして大活躍をします。
おそらくは、孫悟空なのでしょうね。
思慮深くてあまり動かない黄飛鴻が三蔵法師的な「師父」キャラクターであることがここからも感じられます。
つづく