前回は、発勁法の誤解について書いてきました。
この、発勁法について説明するために、ぜひに引き合いに出したい資料があります。
それは、90年代に出版された美術系の書籍となります。
そのシリーズは、一冊1テーマで一冊ごとのお題に合わせた古今東西の絵画や彫刻、また写真などを沢山並べながら、人類史におけるそのテーマについて紹介してゆくという物でした。
そのシリーズの中に「マーシャル・アーツ」という物がありました。
世界の民族の武術に関する資料を展示しながら、文章による説明が書かれています。
その中に、マーシャル・アーツにおける二つの打撃力の出し方についての記述がありました。
一つは横回転の力とされており、二つ目は縦回転の力の出し方として紹介されています。
横回転の力とは空手やボクシングのように、腰か肩、無いし身体全体を水平方向に捻転させることで打撃力を出す方法です。
いわゆる、一般的な方法ですね。
私が否定している、体重、遠心力、関節の瞬発を主体としたやり方です。
もう一つの縦回転の方が今回の焦点です。
こちらに関しては、一般には知られていないが本当のことを知れば恐ろしい威力を発揮するとされており、これは形意拳などに継承されている、と書かれていました。
形意拳と書かれていますが、元が外国語で書かれた本なので、原文では同音の心意拳を差した表記だったとしても不思議はありません。
いずれにせよ、私がこれまで研究課題として追求してきた、心意拳類の発勁法のことを指していることは間違いはありません。
日本でもネット上などで、形意拳の発勁法を「縦回転発勁」などと呼んでいた人たちもいました。
それに対して「いや、形意拳は別に実際に回転はしていない」と言う声も上がっていました。
これ、どちらも解釈の問題なので非常に納得が行くのです。
そしてこの、回転とも言えるけど回転はしていない、というこれこそが、前の記事で白鶴拳の発勁だとして誤って紹介されていた物だと言うのが私の意見です。
件の記事を書いた先生も、間違って解釈した文を公表していた、ということです。
個人的な解釈こそ間違ってはいましたが、この記事によってまた、心意拳類の発勁法が鶴拳類に共通しているという私の研究にもまた一つのソースが加えられることにはなります。
この縦回転発勁に関する記事、例の先生は本当に物理的に縦に回転させるように活用すると紹介して大変なことになってしまっていましたが、では本当は縦回転とはどういうことか。
これね、いまはもうこういう時代ですから、白鶴拳に関しても動画がいくつも見られるので、比較的容易に確認することが出来ます。
よーく見ると、先生によっては身体が後ろから前に回っているのを確認できます。
確認しやすいのは上半身の背中側、首の付け根にある大椎の穴所の辺りでしょうか。
そこをよく注意して見ると、上半身の胸郭の辺りが一つのボックスとして形を維持したまま空中で縦に円軌道を描いていることが近く出来るかと思います。
詠春拳の先生が書いたように、のけぞって戻るというようなことではありません。
角度はほぼ変化しないで維持されたまま、位置が変わります。
これがおそらく「縦回転発勁」と呼ばれている物です。
これに同調して、肩の付け根も同じ軌道で並行しています。
しかしこれ、こうして縦回転が確認できるのですが、やはり別角度から見ると縦回転は本当はしていないのです。
つづく