このパラダイム・シフトの時期に入ってから主に前のパラダイム・シフトのことを描いたフィクションやその時代に書かれた作品についてご紹介することが多いですが、今回ご紹介するのは手に入る限りの二十冊ほどを読んできたターザン・シリーズです。
このシリーズ、開始されたのが1912年のことですので、第一次大戦前になります。
当時の産業革命、資本主義陣営による植民地政策を嘲笑するような野生児として主人公は設定されています。
イギリス貴族の子息でありながら、両親を知らず、類人猿に育てられたためにターザン本人はジャングルの野獣として自分を認識しているためです。
そのため、のちにイギリスに連れ帰られて当時の文明を学習しても、それを批判することしかなくまたアフリカに帰って暮らすと言う設定となっています。
なお、当時の白人種、すなわち資本主義陣営の人々と言えば通称「フランス人」として世界では知られており、作中に登場するアフリカ人やアラブ人は彼らのことをみなフランス人と呼称します。
「どこの国から来たフランス人だ?」「イギリスです」と言ったように。
このように、当時の西欧文明を代表していたのがフランスで会ったと言うことが明白に記述されており、同時にこれは、フランス批判の物語でもありうるということに繋がります。
のちにはベルギーによるアフリカ蹂躙が始まればターザンはこれを攻撃し、ドイツによる第一次大戦が始まればドイツ軍との戦争に参加するのですが、彼の中には自分が「フランス人」であるという認識はありません。
あくまで文化の面に関してはフランス文化に属していた、というだけで、国籍で言うなら自分をイギリス人だと自認しており、それ以上に人間ではなくあくまで動物だと意識しています。
この辺り、映画などの印象での明朗快活なターザンからは想像しにくいかもしれませんが、原作の彼はもっとずっとシビアなキャラクターです。
相手の性別の男女を問わず、敵ならば殺そうとしますし、他の動物に人間が襲われていても「ジャングルでは生死の循環は当たり前だ」として放置します。
そういう意味で、ある種荘子にも通じる自然と調和した存在となります。
さらに突っ込んで言うと、人が持っている物が欲しいがために躊躇なく罪のない人間を殺して奪ったりもします。
もっとも、この傾向はフランスで文明を身に付けてからは「良くないことかもしれない」と引っ込めたようですが。
とはいえ、少なくとも明朗で正義の味方で子供のヒーローというようなキャラクターではないことは明確です。
文明批判を体現した、クールでシビアでタフな、ある意味での裸のハードボイルドだと言える存在となっています。
今回ターザンを取り上げたのは、そのような哲学的な側面を紹介するためではありません。
もっと軽い部分です。
それは、ターザンの戦闘法。
原始的なヒーローが如何に戦闘をしたかと言う描写について書くためです。
つづく