以前にモーリス・ル・ブランのアルセーヌ・ルパンのシリーズを読み返していると言うことを書きましたね。
シリーズを読み続けているのですが、ここでまた知りたかったことをいくつか目にすることが出来ました。
私が伝統武術の継承者としてルパンを読んでいるのは、単に子供の頃に読んで大好きだったヒーローだと言うだけではなくて、前のパラダイム・シフトの時の身体文化や武術、社会傾向などについて興味があるからです。
この辺り、シャーロック・ホームズなどはインド帰りの軍人さんが出て来たり、日本武術に影響を受けたバリツの件が俎上に上がったりということが有名ですが、ルパンについてはあまり知られていないような印象があります。
その原因はもしかしたら、ルパンと言うのが初手からホームズのパスティーシュ作品、オマージュといういわば二級作品だからかもしれません。
大正時代に日本で最初のホームズの二次創作として公刊されたのが、ルパンシリーズの一作目だと言われていますが、実は本国のフランスを除いたら日本と言うのは世界で最もルパンが売れている国なのだそうなのですね。
しかし、実はいまの環境でルパンを読もうとすると全巻を読むのは非常に難しい。
私が子供の頃に読んだポプラ社版は子供向けの意訳作品だと言いますし、大人向けの旧版の堀口大學先生の翻訳シリーズはなんとプレミアがついていて、元の値段とほぼ同じ値段で中古本が流通している次第です。
新訳のハヤカワ版は途中でキンドル版のみになり、それも途中で止まっています。
つまり、世界的に見ると圧倒的に普遍的なホームズとは比べるべくもない小品のシリーズなのですね。
そしてそもそもが、ルパンと言うのは一作目の短編集でホームズが出てきているくらい、ホームズと戦うためのヒーローとして描かれたキャラクターで、独立性があまり強くない。
いわばパチモンのB級小説だとさえ言えるくらいに思います。
実際、無許可でホームズを登場させてルパンと戦わさせていたルパンシリーズは後にコナン・ドイルに怒られて作中のホームズの名前を「誰もがホームズ本人だと連想するような名探偵、エルロック・ショルメ」と言うキャラクターに書き直すことになったくらいです。
ちなみに、このショルメ、英語読みをするとハーロック・ショームズ。偽物性が高い上になんか宇宙海賊みたいでかっこいい。
作者のル・ブランがホームズが大好きだったことがよくわかると同時に、フランスとイギリスのライバル関係が背景にあったのだろうな、とうかがえるところです。
きっと当時のフランスの読者は、イギリスの国民的英雄を出し抜くルパンの活躍が痛快だったのでしょうね。
あ、ちなみにその後の日本語翻訳版の多くでは、版権切れとかが関係しているのか一度「エルロック・ショルメ」と訳されたキャラクターは再度意訳されて「シャーロック・ホームズ」に直されています。ハーロックじゃないのに海賊版じみている。
さてその、ホームズに対抗すべくヴェノムのように作られたルパンなのですが、彼について見えてきた当時の面白い身体文化に関しては次回に譲りましょう。
つづく