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Channel: サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ
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ルパンとキャリステニクスとフランス文化

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 引き続きルパンを読んでいるのですけれど、どうもルパンは時制的に見るといくつかのフェイズがあるな、ということが経験出来てきました。

 初期の頃、ルパンのシリーズが書かれたころは、もう世間で有名になっている完成された怪盗として設定されていました。

 この頃はシリーズ短編だったようです。

 編集者が提案して、短編数本をセットにする形で発表されたようです。

 ホームズが出てくるのもこの時代ですね。

 その後、作者のルブランはルパン作家となり、自身ルパンと言うキャラクターに憑りつかれたと書き残しています。

 改めて少年時代から描かれていったルパンは、キャリステニクスのキャラクターと言う姿にシフトしてゆき、ナポレオン軍の特殊工作将校の子孫の一族だと言う設定で歴史の裏に隠された秘宝をめぐる謎を探索するインディ・ジョーンズ的冒険を繰り広げます。

 そのフェイズの中でルパンは爵位を称し、戦争にも参加しています。

 軍人としての身分を使い終わった後、今度はジム・バーネットと言うイギリス人を装った名を騙って探偵社を開きます。

 そこで私立探偵のフェイズに入ります。

 ここでは短編第一作から登場していた宿敵、ガニマール刑事の弟子だと言うベシュー刑事が相棒となっています。

 ベシューが接した事件にルパンが首を突っ込んでゆき、事件を解決はするのですがどさくさに紛れて現場からお宝や金品を失敬すると言うえ「え、それって火事場ドロ……」というそれまでの時期と比べるとはるかにスケールの小さい時代です。

 ですが、私にはこの時期が滅法面白くて。

 まずはキャラクターが良い。

 大活躍をしていたころのルパンには、それに伴った一味の存在と言うのがあってちょっとサポートキャラクターが多すぎました。

 アパート一軒分くらい手下が居てゾロゾロ現れていたので、ちょっと人海戦術の観もありました。

 しかし、探偵時代は単身で事件を解決します。

 そうなると必然、人格がそのまま事件と繋がってきますので、非常に味がある。

 ベシューとの関係も良くて「しっかりしろよ、おっさん」などと言いながら軽く腹パンを入れたり、ちょくちょく彼をイジりまわしているのもユーモラスです。

 特に私が気に入ったのは「白い手袋…白いゲートル」という作品でした。

 これは前述のベシュー刑事の別居中の奥さんが盗難に合う、と言う事件なのですが、この奥さん、なんと空中ブランコの芸人なのです。

 盗まれた場所には、吊り輪や鉄棒、空中ブランコがある訓練所が併設されています。

 もうルブラン先生、どれだけキャリステニクスが好きなんだという感じです。

 この事件、被害者もキャリステニクサーなら犯人もキャリステニクサーで、二人組のキャリステニクス・マスターをルパンは捕える結果に至ります。

 この二人と言うのが当然筋骨隆々で大男であり、それを単身同時に捕らえるなどと言うのは非常に難しいことなのですが、こういう時に肝心のベシューが役に立たないので仕方ありません。

 ルパンは二人同時に柔術の谷落としを掛けて倒し、そのまま喉輪で制圧する、という流れになっています。

 ルパンと言うのはお調子者で女好きでその場ごと適当なことを言っては唄ったり踊ったりするという軽薄なキャラクターなのですが、この事件の時も自分が実はキャリステニクスの名人であるということを明かした時に、おおはしゃぎで鉄棒や吊り輪、空中ブランコを次から次にと飛び回ってその場のみんなを呆れさせます。

 ついでに言うと、被害者のベシューの奥さんを口説き落として最後は出来てしまうというフランスらしいオチが付きます。

 このような寝取られ男のことをコキュと呼び、フランス文化では定番の面白い状態となっているらしいのですね。

 全然楽しそうじゃないけどな。

 このフランスらしい肉体的性愛の奔放さと、キャリステニクス的身体観というのはやはりどこかで繋がっているのかもしれません。

 とにかくルパンは白髪のマダムから未婚の少女まで、手辺り次第に女性を口説きます。

 ある事件の冒頭では、夜会で遊んで帰宅したところ、部屋に居た女性をみて「またいつものことか」と取り合えずことに及ぼうとしたりします。

 実際は彼女は依頼人だったというお話なのですが。

 このお話は、ジム・バーネットであることを辞めて探偵を廃業した後のお話なのですが、ベシューがずっと食らいついてきて彼を事件に巻き込もうとするのです。

 ルパン自身は「ぼくはもう探偵なんかじゃないんだから。バーネットなんて人は知らないよ」ととぼけるのですがそんなことは通じることもなく。

 結局事件に巻き込まれることになったルパンは冒頭の少女とその姉であるご婦人をどちらも口説き、どちらとも出来てしまいます。

 ついでに言うと、事件に同行しているベシューも事件現場の女中と出来てしまいます。

 しかし、実はベシューは色仕掛けで犯人に利用されていただけ、という事実がルパンの捜査によって明かされ、犯人たちは一網打尽となるのですが、このお話にはやはりフランス的なオチが付きます。

 事件解決によって依頼人姉妹に二人との関係がバレてしまったルパンは、二人に振られてしまってへこみます。

 そこでベシューでも憂さ晴らしに付き合わせようかとしていると、なんとベシューはハニー・トラップを仕掛けた使用人の女、およびその黒幕である女の旦那と出来てしまっており、三人でお楽しみという倒錯的な幸せに至っていました。

 ここでなぜか憤慨したルパンは(ひとのことはほっといてやればいいのに)靴も靴下も服も無いベシューを強引に自分の車に引き込み「なんてざまだ! 世の中にはまだまだ事件で苦しんでいる人がいるんだぞ! ほら、二人で解決に行くぞ!!」と無理やり幸せの現場から遠ざけて行ってしまいます。

 このお話は、ルパン自身も適当なことを言っているので、自分でもこの先どこに行けばいいのか分からない、という描写で終わります。


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